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National Institutes of Natural Sciences

「SOLAR-Bと宇宙天気予報」


1.太陽は爆発に満ちている!

 毎日東の空から登り、西の空へ沈んでいく太陽。
 いつも暖かな光を、地球上のすべての生き物に与えてくれる太陽。

 太陽は、常に我々へ恩恵を与えてくれる、地球に一番近い恒星です。 その太陽の素顔を探るべく、人類は ガリレオ・ガリレイの時代(17世紀) から太陽を観測するための望遠鏡を開発し、 観測を行ってきました。 ガリレオは、太陽表面に黒いシミ(黒点)があることを発見し、 そのシミが日ごとに移動することにより、 太陽が自転していることも発見しました。 右図は、国立天文台三鷹キャンパスにある口径20cmの屈折望遠鏡を使って、 人間が目で感じることができる光(可視光)で観測した、 1992年8月15日の太陽です。 左半球に大きな黒点が見えますが、 可視光で見る太陽は静かで、 激しいことは何も起こっていないように見えます。

 20世紀における科学技術の進歩により、 さまざまな太陽を観測する手段・方法が開発されました。 そのなかでも大きな進歩は、ロケット・人工衛星の発達により、 地球の大気圏外から太陽を観測ができるようになったことでしょう。 大気圏外からは、地球大気のために地上に届かない光である X線やガンマ線等が観測できるようになりました。

 左の画像は、1991年に打ち上げられた太陽観測衛星「ようこう」に搭載された、 太陽から発せられるX線を観測する、 軟X線望遠鏡(SXT)で撮られた太陽画像です。 この動画 (左の画像をクリックすると動画[GIFムービー:5MB]を見ることができます。) を見ると、 いたる所でピカピカひかっており、 爆発(太陽フレア)が起こっていることがわかります。 よくみると、 太陽から宇宙空間に向かって ものが放出されているような動きも見ることができます。 これらの爆発や放出現象のエネルギーを観測データから推定すると、 一番小さい爆発でも10の26乗エルグ、 太陽最大の爆発では10の32乗エルグのエネルギー量になります。 わかりやすい単位がなかなか無いのですが、 人類が作り得る最大の爆発エネルギーである水素爆弾(15メガトン級)を 単位にすると、一番小さいエネルギーでも水素爆弾1万発分に相当します。 最大の爆発にいたっては、 100億個の水素爆弾がないと、 相当するエネルギーを出すことができません。

 お気づきの方もいらっしゃると思いますが、 左上図のX線太陽動画は、 右上図の可視光太陽画像とほぼ同じ時期に撮られた動画です。 これを見ると、可視光でみた太陽が非常に静かなのに、 X線でみた太陽は活発で、 いつでも爆発が起きてることが実感できるでしょう。 実は、このX線でみた太陽こそが太陽の本当の姿なのです。 これらの巨大なエネルギーを生み出す爆発(フレア)が 太陽で頻繁に起きているのに、 地球に住む我々に影響は無いのでしょうか?

画像
可視光太陽画像:国立天文台・太陽観測所提供
ようこう/SXTによる太陽X線画像:JAXA/ISAS, NAOJ, LMSAL, Montana Univ.提供

2.太陽活動と我々の生活

 前章で、太陽では膨大なエネルギーの爆発現象(フレア)が 起きていると書きましたが、安心してください。 我々の健康には影響を与えることはありません。なぜなら、

  1. 太陽は地球から遠くにある(地球−太陽間距離=約1億5千万km)
  2. 地球を覆っている大気が、 フレアから放出されるX線・エネルギーの高い紫外線や エネルギーの高い粒子(高エネルギー粒子)等、 人体に害を及ぼす電磁波や粒子を止めてくれる
からです。でも、完全に影響がなくなったわけではありません。 最近になって、 爆発現象であるフレアなどの太陽活動が、 我々の生活に影響を及ぼすことが多くなってきました。 影響を及ぼすようになった原因は、 我々が生活するうえでさまざまな電子機器をつかい、 電波による通信や人工衛星による恩恵を受けるようになったからです。 恩恵の身近な例として、 GPS衛星によるナビゲーションを例にとって説明しましょう。

 GPS衛星によるナビゲーションは、 1990年代に車の道案内用として実用化され、 今日では携帯電話にもその機能がついているほど一般的になっています。 GPSナビで自分の居る場所がわかる理由は以下のとおりです (右図を参照)。
 地球の周りには、多数のGPS衛星が周っており、 絶えず電波を地上に向かって出してます。 衛星と地上のGPSナビには、非常に正確な時計があり、 衛星が電波を発した時間と GPSナビが電波を受け取った時間の差を測ることができます。 この時間の差は、GPSナビから衛星までの距離を示しており、 3つの衛星の電波を受ければ、自分の居る場所を計算することができます。

 このように我々は、知らないうちに、 人工衛星や電波による通信の恩恵を受けているのです。 では、なぜ太陽活動が人工衛星や電波通信に影響をおよぼすのでしょうか?

 繰り返しになりますが、フレアが太陽で発生した場合、 爆発にともなって強烈なX線や紫外線や高エネルギー粒子が、 宇宙空間に放出されます。 フレアから放出された高エネルギー粒子が地球へ向かってきた場合、 地球大気に衝突して徐々にエネルギーを失うため、 大気の下にいる我々に高エネルギー粒子は届きません。 しかし、宇宙を飛んでいる人工衛星には、 高エネルギー粒子を防いでくれる大気がありませんし、 人工衛星のボディーは高エネルギー粒子を防ぐには厚みが足りません。

左図は、太陽観測衛星「SOHO」に搭載された、太陽から離れたコロナを 撮像するための観測装置(コロナグラフ)で捕らえた太陽コロナです。 太陽から離れた場所を見るため、太陽自身は中心のマスクで隠されています (中心の円が太陽に対応)。左図の左側のパネルには、 太陽で起きた爆発により、多くの物質が画面左下側に放出されている様子 がきれいに撮像されています。この爆発で放出された物質は、 地球の方向に向かっていませんので地球に影響をおよぼしません。 一方、左上図の右側のパネルは、画面全体がごま塩のようになっているのが 見えると思います。これは、太陽での爆発で放出された高エネルギー粒子 が地球の方向に向かってきて、観測装置のCCDカメラにぶつかってできた 模様です。 このように、高エネルギー粒子が衛星に搭載されたコンピュータに直撃すると、 コンピュータの機能が停止してしまう可能性があります。 停止してしまった場合、GPSや地上との通信機能が停止し、 我々の生活に影響が出ることが考えられます。 実際に、衛星放送用の人工衛星がフレアのため故障し、 オリンピックの中継が中断したことがあります。

 この高エネルギー粒子は、 原子爆弾や水素爆弾によって作られる放射線とほぼ同じものです。 よって、人体に多量の高エネルギー粒子があたってしまうと、 健康を害したり、最悪の場合死に至ることもあります。 そのため、右図にあるように宇宙飛行士が船外活動をする場合は、 フレアに注意をしなければなりません。 地球上で暮らしている場合には、大気があるため問題になりませんが、 SFやアニメに描かれているように、 今後我々の生活圏が宇宙まで広がった場合、 フレアによる高エネルギー粒子は重要な問題になります。

 太陽フレアにともなって宇宙空間に放出されるのは、 X線や高エネルギー粒子だけではありません。 多量の物質と太陽の磁場も宇宙空間に放出されます。 ご存知のように、太陽黒点は非常に磁場が強い場所であり、 太陽フレアは黒点付近で発生します。 そのため、太陽の磁場がフレア等によって宇宙空間に吹き飛ばされることは 良くあることなのです。 放出された磁場の強さは、 地球付近に来るころには非常に弱くなっていますが (数nT=普通のU型磁石の1万分の1の磁場の強さ)、 地球の磁場を揺らしたり、 変化させるエネルギーを持っています。 この太陽からくる磁場の影響の一つにオーロラ (右図:宇宙から見たオーロラ)があります。 オーロラは太陽磁場を通じてやってくる荷電粒子が地球磁場に飛び込んで、 地球大気(の分子)と衝突して発光する現象です

 オーロラは、美しく神秘的な自然現象ですが、 太陽からきた磁場による影響は、これだけではありません。 皆さんは、「磁気嵐」という言葉を聞いたことはありませんか? 磁気嵐というのは、太陽から来た磁場により、 地球の磁場が激しく揺れたり、構造が変化することを言います。 この磁気嵐が原因で、電波による通信が不通になることがあります。 最近では、2003年に発生した大フレアのため、 航空・海上の通信が途絶えたため、運行に影響がでたこともありました。 また、磁気嵐により変電所のコイルに大電流が流れ、 左図のように焼き切れてしまう場合があります。 実際に1989年には、 磁気嵐が原因でカナダ・アメリカ東海岸が大停電なりました。

 このように、我々の生活に影響を及ぼす太陽活動ですが、 これらを防ぐ手立てはあるのでしょうか?

画像
GPSのしくみ:文部科学省・「情報機器と情報社会のしくみ」開発委員会提供
SOHO/LASCOによる太陽コロナ:NASA/ESA提供
宇宙飛行士・オーロラ・焼けたコイル:NASA提供


3.宇宙天気予報とSOLAR-B衛星

 残念ながら、現在の科学では太陽活動を抑えることも、 太陽から放出される電磁波・粒子・磁場の影響を完全に防ぐこともできません。 しかし、太陽活動や太陽活動による地球磁場への影響が予報できるとすれば、 我々の生活への影響をかなり小さくすることができます。

 たとえば、巨大な太陽フレアが起こりそうなときは、 衛星に搭載された高エネルギー粒子に弱い機器の電源を落としたり、 宇宙飛行士の船外活動を中止し、 宇宙船内の安全な場所に避難することで、 被害を小さくすることができます。 また、磁気嵐が起きそうな時は、 通信が運行上重要な航空機や船舶に注意を促すことで混乱を防いだり、 変電所のコイルのスイッチを切ることで停電を回避することができます。 特に磁気嵐は、太陽でフレアが発生した直後に発生するわけではなく、 フレア発生数日後に発生するので、 太陽のX線観測等で大フレアが観測されたあとに、 コイルのスイッチを切ることで実際に停電を回避した例もあります。

 しかし、そう長い時間のあいだコイルのスイッチを切ることもできませんし、 太陽フレア発生直後に影響が出てしまう衛星や宇宙飛行士に対しては、 フレアを観測した後で影響を防ぐことができません。 よって影響を小さくするためには、 太陽活動や磁気嵐を予報することが、 非常に重要になっています。 これらの需要により、 太陽活動や磁気嵐など地球近辺の宇宙空間状況を予報する、 「宇宙天気予報」と呼ばれる研究の重要性が高まってきました。

 地球近辺の宇宙空間を支配しているのは、太陽活動、特にフレアですので、 宇宙天気予報の基本の一つは、フレアを予報することです。 フレアが発生する場所は、 黒点などの太陽表面の磁場が非常に強いところであることがわかっています。 よって、太陽面上に大きな黒点が出現すれば、 大きなフレアが発生する可能性が高くなるということは、言うことができます。 しかし、宇宙天気予報にとって重要な、 いつ・どこで・どの程度のエネルギーを持ったフレアが起きるかを、 現在の我々のフレアに対する理解では、 予想することができません。
 最近の研究、特に日本の前太陽観測衛星「ようこう」の観測により、 フレアは磁気リコネクションといわれる磁気エネルギーの 解放メカニズムであることが明らかになりました。 このメカニズムがどのような時に発生するかが、 フレアを予報する上での最大の問題となっています。 この問題に対してSOLAR-B衛星は、 3つの異なる波長の望遠鏡の観測により、

  • 太陽活動の源である磁場が、 太陽内部から湧き出てくる様子を詳細に捕らえ、
  • 太陽コロナ中で、 磁気エネルギーがどのように蓄積されていくのかを調べ、
  • どのような状況のときに磁気リコネクションが発生するのか、
を明らかにしていきます。 SOLAR-B衛星によるフレアの基礎研究により、 宇宙天気予報の精度が上がっていく事を期待しています。


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国立天文台SOLAR-B推進室 2006.9.7