SOLAR-Cで探る新しい太陽物理学とその広がり

 次世代太陽観測衛星SOLAR-Cは次期太陽サイクルにおけるフラッグシップ太陽観測装置として計画されています。本セッションはSOLAR-C衛星の計画策定がほぼ完了し、2020年代における新しい太陽研究の方向性が明確になりつつあることから、SOLAR-C衛星の科学戦略とその広がりについて太陽及び関連分野(天文学、地球惑星科学、宇宙天気・宇宙気候)の研究者によって多角的に議論することを目的として実施されました。
 セッションは3件の招待講演、応募のあった口頭発表(15件)・ポスター発表(3件)及び総合討論から構成され、学会3日目全日を利用して100名程度の参加者による活発な議論が展開されました。SOLAR-Cはこれまでにない超高分解能観測によって、「太陽面爆発の発現機構解明と科学的予測の実証」、「太陽周期変動の原因解明と太陽気候影響の理解推進」、「彩層・コロナ・太陽風システムの形成機構の解明」、「マルチスケール磁気プラズマ現象の理解の推進」を実現することを目的としています。本セッションでは第1にこれらの目的達成のためにSOLAR-Cによる精密観測が如何に重要であるかを、ひので、SDO、IRISなど最新の衛星観測成果を基に議論が進みました。特に、コロナ加熱問題に関して招待講演者の鈴木健氏(名大)は太陽光球面、彩層、コロナをつなぐエネルギー流束がまだほとんど定量的に捉えられていない現状をレビューし、SOLAR-Cによる課題解決を展望しました。また、太陽フレアなどの爆発現象に関しても、SOLAR-Cの精密観測によってフレアトリガ機構が解明されると共にその発生予測への道が拓かれる可能性が幾つかの講演で議論されました。最近の研究によって彩層磁場がフレア発生のトリガとなることが見出されていることから、彩層磁場の精密観測を初めて実現するSOLAR-Cに対して宇宙天気予報の観点からも期待できることが示されました。また、招待講演者の高橋幸弘氏(北大)は太陽の気候影響に関する問題を整理した上で、紫外域における太陽放射をSOLAR-Cが精密に観測することは成層圏加熱を通した気候影響の理解に非常に重要であることを述べられました。
 さらに、海外の衛星計画や地上大型望遠鏡計画とSOLAR-Cの協力・連携についても議論されました。特に、米国で建設が進む口径4m太陽望遠鏡DKISTについてValentín Martínez Pillet氏(米国NSO)が招待講演を行い、SOLAR-Cと連携した微細構造観測の重要性を説明されました。この他、SOLAR-Cによる非平衡プラズマ診断や高時間分解能観測によって磁気リコネクションの内部構造を探る試み、ハンレ効果を利用した新しい偏光分光磁場観測、SOLAR-Cによる太陽観測と恒星観測のシナジーなどに関するレベルの高い議論が進み、SOLAR-Cの実現が太陽研究のみならず恒星天文学やプラズマ物理学の進展にも大きな貢献をすることが実感できました。以上の通り、SOLAR-C計画の科学戦略について太陽分野に留まらない広範な議論を通して新しい天文学を開拓する次世代観測機としてのSOLAR-Cを展望することができたことから、本企画は提案者の期待を超える成果を生むものであったと言えます。(草野完也)

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