概要
次の太陽物理学のフロンティア -- 彩層
2006年に打上げられた日本の太陽観測衛星「ひので」の観測により、彩層が活動的であることがわかってきました。 この成果により、太陽物理学は激変し、新たな発展の時代に突入しました。
「ひので」は、磁気流体波動や超音速まで加速されたジェット現象を光球・彩層のいたるところで発見しました。 この結果、『彩層・遷移層は光球とコロナをつなぐ中間層にすぎない』という従来の認識から、これらのダイナミックな現象が彩層・コロナの加熱に深く関連しているらしいとの考えに変わりつつあります。 彩層を通してコロナへエネルギーが輸送される点や、コロナの約10倍の加熱エネルギーが彩層の維持に必要な点からも彩層は重要で、『プラズマ圧優勢から磁気圧優勢に切り替わる彩層・遷移層の磁場構造と、これら動的現象との共同観測こそが次の太陽物理のフロンティアである』との認識が、ここ数年急速に生まれました。
本研究の目的
次期太陽観測衛星SOLAR-C(平成31(2019)年度打上げ希望)の主要科学目的の一つは、彩層・コロナの加熱現象・動的現象の解明のため、光球~コロナの3次元磁場構造を明らかにすることです。 そこで本研究では、彩層・遷移層研究を通して、SOLAR-C計画に確実な科学的・技術的目処をつけることを目的とします。
「ひので」-IRIS 共同観測
最初のステップとして、現在運用中の日本の太陽観測衛星「ひので」と2013年6月に打ち上げられたアメリカの太陽観測衛星 IRIS (Interface Region Imaging Spectrograph) との共同観測を行ないます。 これは、「ひので」が得意とする世界最高精度の光球磁場観測、高時間分解能での彩層撮像観測と、 IRIS の彩層からコロナの高解像度分光観測を組み合わせ、彩層・コロナのダイナミクスと温度構造を解明する研究です。
この研究を行なうために、アメリカの IRIS 科学運用センターに現地拠点を築き、 日米の先端的太陽観測衛星の戦略提携を進めます。
CLASP 開発と共同観測
2つめのステップとして、彩層・遷移層の磁場を直接観測を目的とした観測ロケット実験 CLASP (Chromospheric Lyman-Alpha SpectroPolarimeter) の開発と観測を行ないます。 彩層・遷移層の弱い磁場を計測するために、世界で初めてライマンα輝線の偏光を高精度に観測し、量子力学的ハンレ効果を用いて磁場を求めます。
2013年には観測装置の製作を行ない、2014年には各種試験を行ない装置の性能をチェックします。 2015年にロケットを打ち上げて観測を行ない、「ひので」-IRIS 衛星との共同観測と合わせて、これまで間接的にしか見えなかった彩層・遷移層磁場の謎に迫ります。
SOLAR-C の開発へのフィードバック
「ひので」-IRIS 共同観測で得られる彩層・遷移層・コロナのダイナミクスに関する新たな情報と、CLASP 計画でもたらされる世界初の彩層・遷移層磁場の計測は、SOLAR-C 計画に対しての科学的・技術的進展として反映され、計画全体の見通しを良くすることが出来ます。
期待される成果
- 日米の先端的太陽観測衛星の戦略提携として、「ひので」-IRIS 衛星の共同観測にコアチームとして参加し、顕著な成果創世を図る。
- 観測ロケット実験 CLASP を国際協力で推進し、世界初の量子力学的ハンレ効果を 用いて彩層・遷移層の磁場を測定し、その技術を獲得する。
- 若手研究者に観測装置の開発機会を提供し、宇宙実験のリーダーを育む。
- 次期太陽観測衛星SOLAR-C計画に確実な基礎を築く。