コラム

ひのでサイエンスコラム:02 太陽表面の黒いしみ −黒点−

 太陽表面にある黒いしみ「黒点」の存在は、 古くはガリレオの頃から知られており、 太陽の自転と共に東から西へ移動する様子や、日々、 形や数が変化していくことが観測されていました。 また、非常に長い期間に渡って黒点の数を調べると、 その数が約11年周期で増減していることも分かります。 おおざっぱに言うと物質が出す光の量は、 温度が高いほど明るく、温度が低いほど暗くなります。 黒点の中(特に暗部)は、その大きさにもよりますが、 周囲よりも約10%程度の明るさしか無く、 これは温度がおよそ2000度周囲よりも低いことに相当しています。 このように、古くから知られていた黒点ですが、未だに謎が多い存在です。

  • 黒点はなぜ安定に存在するのか
  • 黒点はどのように崩壊するのか
  • 黒点暗部、半暗部に存在する微細で複雑な構造の起源

などなど、まだ理解できていないことも多いのです。20世紀初頭に黒点の内部に は強力な磁場が存在することが発見されました。この磁場の役割を理解すること が、黒点の謎の解明のためには重要なのですが、高い解像度で長時間に渡って 観測することが、従来の地上からの観測ではなかなか実現できていませんでした。

 そこで「ひので」の登場です。「ひので」に搭載された可視光磁場望遠鏡 (Solar Optical Telescope, SOT) は天候や大気の揺らぎの影響を受けない宇宙空間から、 高解像度で長時間に渡る連続した観測が実現できる世界で唯一の望遠鏡です。 「ひので」で観測した黒点のスナップショット(図1)をご覧下さい。 黒点やその周辺にある微細な構造がとらえられていることが分かります。 半暗部に存在する細い筋状の構造(フィラメント)や、 暗部内に多数存在する小さな点(暗部輝点)、 暗部を2つに分割している明るい帯(ライトブリッジ)が綺麗にとらえられています。 また黒点の周囲には、 半暗部を伴わない小黒点(ポア)がたくさん存在していることが分かります。

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図1:「ひので」 可視光磁場望遠鏡で観測した黒点のスナップショット (2007年5月3日)

 多数のスナップショット画像をつなげることで、 動画を作成することもできます。 2006年11月に観測された黒点の6日間に渡る動画をご覧下さい (動画1)。 この黒点は、かなり大きな部類に属するもので、 観測期間中は崩壊もせず安定に存在しています。 それでも内部や周囲は絶えず変化し続けていることが分かります。 暗部と半暗部の境界では、 半暗部フィラメントの先端や暗部輝点が暗部の中に侵入していく 様子がとらえられています。 また黒点の周囲ではポアが発生したり消えたり、 また黒点から遠ざかるように移動しているのが分かります。

  • 動画1:「ひので」可視光磁場望遠鏡で観測した黒点の動画
    (2006年11月12日-17日)

         

 この黒点で特徴的なのは、 暗部の中央西側(右)から東側(左) にかけてライトブリッジが形成される様子がとらえられているところです(図2)。 このように高い解像度で数日間に渡って 連続的に形成の過程がとらえられたのは世界初です。 黒点は、磁力線の束が密に寄せ集まることでガスの運動をさまたげ、 周囲よりも温度が低くなった構造です。 そこに一端亀裂が入ると、 熱いガスが暗部の中になだれのように侵入するようになり、 ライトブリッジになることをこのデータは示唆しています。 黒点崩壊の過程の一部をとらえたものなのです。

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図2:「ひので」可視光磁場望遠鏡で観測したライトブリッジの形成の様子

  • 動画2:「ひので」可視光磁場望遠鏡で観測したライトブリッジの形成の様子

         

 「ひので」によって黒点の謎は少しずつ明らかになりつつあります。 ここで紹介できなかった成果もまだまだたくさんあります。 次回以降をご期待下さい。

勝川 行雄(ひので科学プロジェクト)


ひのでによる関連研究論文

Katsukawa, et al. 2007, PASJ, 59, S577
"Formation Process of a Light Bridge Revealed with the Hinode Solar Optical Telescope"

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