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コラム

第6回機構長プレス懇談会でのCLASP講演 実施報告 「光を測る 観測ロケット実験CLASP―太陽からの微弱な偏光を捉えろ!―」

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 国立天文台が属する自然科学研究機構で、報道機関の方々との継続的な連携関係を目指して開催されている「機構長プレス懇談会」。第6回目は2015年が国際光年であることにちなみ、「光」をテーマとして、「光を測る」、「光を作る」、「光で観る」といった異なる視点から最新の研究成果について話題提供を行いました。そのうちの「光を測る」として、ひので科学プロジェクトの石川遼子助教が話題提供を行いました。内容のダイジェストを以下に掲載します。

開催日時:2015年1月30日(金)16:00 ~ 18:00
場所:スタンダード会議室 神谷町店

 天文学は、電磁波(光)から物理情報を引き出す学問である。その手法の代表的なものは「撮像」と「分光」であるが、ここでは特に「偏光」を強調したい。偏光を測定することにより、太陽などの恒星や銀河といった天体の磁場や原始惑星系円盤の空間構造、そして宇宙のはじまりまでをも知ることができるのだ。

●偏光と磁場

 近年注目を集める偏光分光観測であるが、天文学の中でも太陽分野ではその手法が古くから用いられてきた。中でも2006年に打ち上がった太陽観測衛星「ひので」は、世界初の宇宙からの偏光分光観測を行い、太陽表面(光球)の詳細な磁場情報を我々にもたらしたhttp://hinode.nao.ac.jp/news/090407PressRelease/、http://hinode.nao.ac.jp/news/100309PressRelease/)。偏光と磁場はどう関係しているのか?このしくみを説明しよう。

fig1 (1) 2.PNG

 磁場があると「ゼーマン効果」によりスペクトル線(※1)が分裂および偏光する。図1左の黒点画像の赤い線の部分のスペクトルが右側に示してある。黒点の部分で「強度」一本のスペクトル線が黒点の磁場によって三つに分裂していることがわかる(図1の◯で囲った部分)。黒と白が偏光していることを表している「円偏光」のスペクトルでは、「強度」のスペクトル線が分裂していない場所でも偏光が生じていることがわかり、磁場があることが分かる。このように、偏光を用いると、弱い磁場まで測定することができる。
                     図1ゼーマン効果によるスペクトル線の分裂・偏光
   (※1)スペクトル線:光を波長ごとに分けることを分光という。
   波長ごとに強度を配列した図をスペクトルという。図2は横軸に
   波長、縦軸に光の強度をとったスペクトルの例である。スペクト
   ル上に「輝線」や「吸収線」と呼ばれる線が現れることがある。
   これらを「スペクトル線」と呼ぶ。スペクトル線は、原子やイオ
   ンの種類ごとに決まった波長の光を吸収したり放出したりするた
   めに生じる。

fig2a 2.png      fig2b 2.png

図2 スペクトルの例(左:HRTS(NRL)、右:JAXA)

●偏光の測定方法

 偏光とは、振動の方向がそろった光のことである。偏光はどうやって測定するかというと、偏光した光に感度のある「偏光素子」を回転させることで測定できる。偏光素子の一つに3Dメガネなどに用いられる偏光板がある。偏光板は、ある方向に振動する偏光だけを通す(図3)。そのため、回転する偏光板を通して偏光した光を見ると明るくなったり暗くなったりする(動画1参照)。暗くなる度合いから偏光の度合い(偏光度)が分かり、どの向きに回したときに暗くなるかで偏光の向きが分かる。これが偏光測定の原理となる。

fig3 (1) 2.png   

    図3 偏光板(国立天文台)       動画1 偏光の測定原理(国立天文台)  

●磁場測定の重要性

では、どうして磁場を測定する必要があるのか。太陽物理学で残された大きな謎の1つに「彩層・コロナ加熱問題」がある。太陽の表面の温度は6000度、その上空の彩層は1万度、さらに上空のコロナは100万度である。太陽のエネルギーの源はその中心部で起こっている核融合反応であるから、中心から遠ざかるにつれて温度が下がるのが普通である。しかし、太陽の上空のコロナは、なぜか表面よりも温度が高いのである。黒点のある所は、磁場が強い。そして、黒点の上空はX線で見ると明るく輝いており、コロナが熱くなっている。このことから、彩層~コロナの加熱には磁場が重要な働きをしていることはほぼ間違いない。

動画2 光球と彩層

「ひので」衛星は、光球とコロナに挟まれた彩層が我々の想像以上に活発に活動している様子を捉えている。動画2をご覧いただきたい。青色は黒点周辺の光球の様子を表している。同じ場所を波長の違う光で見ると、彩層の様子を見ることができる。赤色は彩層の様子である。この彩層のダイナミックな現象がエネルギー源となってコロナを加熱している可能性もあり、彩層の重要性も見逃せない。
 したがって、彩層・コロナ加熱の謎を解くには、彩層~コロナの磁場を測ることが不可欠である。そこで、彩層~コロナの磁場を精密に測定することを目的として、「ひので」の次の太陽観測衛星「SOLAR-C」が計画され、2022年頃の打ち上げを目指している。

●国際共同ロケット観測実験CLASP

 太陽表面「光球」の磁場は、上で述べたとおり、ゼーマン効果で生じる偏光を利用して、「ひので」衛星が測定している。しかし、同じ方法で彩層~コロナの磁場を測定することはできない。彩層~コロナでは、ゼーマン効果で生じる偏光が非常に小さいからだ。そこで、「量子論的ハンレ効果」により生じる偏光を利用する。ハンレ効果は近年、理論的・観測的研究が進み、彩層~コロナ磁場の新しい測定手法として注目を集めている。そこで、観測ロケット実験「CLASP」が計画された。衛星を打ち上げるのに莫大なお金と時間がかかるのと比べれば、ロケット実験は比較的簡単に行える。また、「ひので」の次の太陽観測衛星「SOLAR-C」に向けて、ハンレ効果を用いた測定手法の実用化が必須である。CLASPはそれ自身が太陽彩層・遷移層(※2)の磁場を測定することを目的としているとともに、SOLAR-C衛星の予備実験としても重要な位置づけとなっているわけだ。

fig5 (1) 2.PNG
図4 フライト品の開発(国立天文台/JAXA/IAS/CNES)

 CLASPは、日米欧にまたがる5か国12の研究機関が参加する、国際協同実験である。2015年夏に米国White Sandsで、NASAの観測ロケットにより打ち上げを予定している。砂漠の端から天空へ打ち上げ、高度150 km以上で太陽観測を行い、パラシュートで砂漠中央に帰還する。観測時間はわずか300秒弱。そのための観測装置開発に、実に7年を費やしてきた。現在は、国立天文台の先端技術センターにて、観測装置の最終組み立て、性能評価試験を行っている段階である(図4)。

   (※2)遷移層:彩層とコロナの間の薄い層     

●CLASPの困難

 CLASPでは、太陽の彩層・遷移層から放射されるライマンα輝線(波長121.6 nm)を世界で初めて偏光分光観測する(水素原子が出す121.6 nmの輝線は、ライマンα線と呼ばれる)。ライマンα線で生じるハンレ効果を測定するためには、直線偏光を0.1%以下という高い精度で検出する必要がある。動画1で、わずか0.1%暗くなるのを検出するということだ。ライマンα線の存在する、紫外線の中で最も波長の短い10 ~ 200 nm付近の領域は、「真空紫外線」(※3)と呼ばれる。この領域には、ライマンα線をはじめとする彩層~コロナから放たれる輝線が多数存在するため宝の山と考えられているが、この波長域での偏光分光観測装置の開発例はほとんどなかった。その理由は2つある。1つは、可視光に比べ光量が圧倒的に少なく、高い測定精度が必要な偏光分光観測は非常に困難であること。もう1つは大気で吸収されてしまうことだ。宇宙からの観測が必要不可欠のため、観測の障壁が高い。また、観測装置の組み立ての際に実施する地上での性能試験は、真空状態で行わなければならず、その試験環境の準備も大変骨の折れる作業だ。

   (※3)「真空紫外線」という呼び名は、大気で吸収され、真空中でしか伝わるこ
   とができないことによる。

●困難を乗り越えての観測装置の開発

 図5にCLASPの光学系を示す。第一の課題である光量の少なさを克服するため、光学素子の数を最小限におさえたシンプルな光学系を持つ事で光を無駄にしないようになっている。また、真空紫外線は容易に吸収されてしまうため、波長板以外は反射型とし、全ての光学素子にライマンα線で高い反射率を持つ特殊なコーティングを施している。

fig6 (1) 2.png

          図5 CLASPの光学系(国立天文台、JAXA、NASA/MSFC)
 CLASPは、半波長板(偏光素子の一つで入射する直線偏光の向きを変える)を回転させることで偏光を測定する。ライマンα線用偏光分光観測装置の開発はこれまでに例がなく、この波長板をはじめとする全ての光学素子やコーティングは、放射光施設(UVSOR※4)で開発を行ってきた。2009年から計30週以上費やし、フライト品の開発にこぎ着けた。
 第二の課題(真空環境での試験の困難さ)の克服のため、研究チームは性能評価試験項目を精査し、光学調整(※5)などの試験の大部分を大気中で実施できるように工夫した(※6)。これによって、試験時間とマンパワーを削減している。

   (※4)自然科学研究機構分子科学研究所にある極端紫外光研究施設。高強度の直線
   偏光したライマンα光を得ることができる。

   (※5)目標の光学性能を得るために、光学素子の傾きや位置を調整すること。

   (※6)一例として、可視光光源を使って大気中で偏光分光器の光学調整の大部分
   を実施できるよう試験用の回折格子を開発した。フライト用の回折格子はライマン
   α光を図6の角度で反射するようにできており、可視光は同じ角度には反射しない。
   可視光を図6と同じ角度で反射する試験用回折格子を開発することにより、フライ
   ト用回折格子の回転角とCCDカメラの焦点調整以外を大気中で実施できるようにし
   た。

 今後、3月末までに国内での試験を完了し、4月に米国マーシャル宇宙飛行センター(MSFC)へ出荷する。米国到着後は、フライトエレキとの噛み合わせ試験等を行い、8月に米国White Sandsにて打ち上げの予定である。
 先に述べたように、CLASPは次期太陽観測衛星SOLAR-Cへのパスファインダーである。世界初の真空紫外線領域でのハンレ効果検出とそれから得られる遷移層磁場の情報、高精度偏光分光装置の開発技術、そしてCLASP開発の7年間で培われた若手研究者たちの経験がSOLAR-Cへとつながっていく。SOLAR-Cの時代には、彩層~コロナの磁場測定により彩層・コロナ加熱の謎が解けることを期待する。

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