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コラム

宇宙科学についての勉強会 「太陽フレアの発現メカニズム解明を目指して」を開催しました

 2014年末に日本天文学会欧文研究報告(PASJ, 査読付き英文学術論文誌)で「ひので」特集号が発行されました。掲載された18論文のうち、太陽フレアの発現メカニズム解明に焦点を当てた研究に関して、報道関係者向けの勉強会を開催しました。勉強会の内容のダイジェストを以下に掲載します。

開催日時:2015年1月20日(火)15:30 ~ 18:00
場所:JAXA東京事務所 地下1階プレゼンテーションルーム
司会:JAXA宇宙科学研究所 学際科学研究系 准教授  生田 ちさと
登壇者:名古屋大学 太陽地球環境研究所 教授  草野 完也
     JAXA宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 准教授  清水 敏文
     名古屋大学 太陽地球環境研究所 助教  今田 晋亮
     名古屋大学大学院 理学研究科 博士後期課程  伴場 由美

■「ひので」の現状

 2006年9月に打上げられた太陽観測衛星「ひので」は、当初のミッション寿命(3年)を大幅に上回り、軌道上での観測運用が8年を超え、現在も順調に運用している。太陽活動は低調ながらも極大期を迎え、現在フレア観測を最重点に観測運用を行っている。そのなかで2014年10月に現れた巨大肉眼黒点では巨大フレア(Xクラスフレア)が6つ発生し、そのうち5つは「ひので」で良質な貴重な観測データが得られている。観測データを伝送する通信系の不具合のため、バックアップの通信系を用いた運用を行っており、限られたテレメトリ(※1)量のもとで、いつどこで発生するかの予測が難しいフレアをとらえようと工夫をしながら、観測を実施している。

(※1)テレメトリ:衛星から地上に伝送されるデータ

■太陽研究の未解決課題

fig1 2.png
図1 太陽大気の模式図(国立天文台)

 代表的なものは、次の3つ。
1) なぜコロナは光球(6000度)よりも高温(100万度)か?
2) フレア爆発はいつ起きるか?
3) 黒点周期変動と地球気候への影響。
 今回の勉強会では、2) に焦点を当てる。  
 

■太陽面爆発(フレア・CME)の社会影響

 太陽面爆発が起こると電荷を帯びた粒子や巨大な衝撃波が地球まで飛んでくることがあり、そうすると、通信障害が起こったり、人工衛星が影響を受けたり、宇宙飛行士の船外活動を妨げたり、飛行機の航路の変更を迫られたり、地上では発電システムが影響を受けて大停電が起こったりする。

 1989年3月のケベック州大停電は記憶にある方も多いだろう。2012年7月に発生した巨大爆発は150年前に起きた歴史上最大の磁気嵐を起した爆発と同じぐらい強力なものであった。幸い、地球から見て太陽の裏側で起こったので地球に影響はなかったが、もし、地球に向けて爆発が発生していたら我々の社会に甚大な影響を与えていた可能性がある。

■太陽フレア発生の予測

 いつ、どこで、どれだけの大きさのフレアが発生するか?発生の1日前予測は、現在のところ、当たる確率が半分くらい。過去40年くらいの間、予報精度があまり向上していない。黒点の形や大きさなどの指標を用いて経験則をもとに予測しており、「ひので」やSDO衛星が取得する磁場の精密観測を効果的に活用した予測まで至っていない。磁場の精密観測と理論モデリング研究が連携した研究を一層加速させることによって、物理的予測モデルに基づいた予測への道が開けると期待している。

■フレアとは

 コロナ磁場に蓄えられた自由エネルギーを、磁気リコネクション(図3参照)を通してプラズマ(※2)の熱・運動エネルギーに短時間で変換する自然現象である。フレア発生のメカニズムとして、図2のような描像が多くの研究者の共通理解になりつつある。

   (※2)プラズマ:イオンのように電荷を帯びた粒子のこと。

fig2 2.PNG

図2 フレアのメカニズム(ISAS/JAXA)

   fig3 (1) 2.png
図3 磁気リコネクション(ISAS/JAXA)
 
 
磁気リコネクションとは、反平行の磁力線1'-1と2-2'が、1'-2'と2-1につなぎ変わること。このとき、磁場のエネルギーが熱や運動エネルギーに、短時間で変換される。
    fig4.png
 
 
ねじれた磁場が上昇すると、赤色の部分で磁気リコネクションが起きる。磁気リコネクションが起きると、上向きの力が働きねじれた磁場の上昇を加速する。これが相乗的に繰り返し起きる。

     図4 「不安定化」と「磁気リコネクション」の

        相乗的発展のモデル(Moore et. al. 2001)

 フレアのメカニズムの中で、フレアを起こすきっかけとなる「トリガ」が最も理解できていない課題である。この「トリガ」に関する最新の3つの研究を以下に紹介する。

■研究紹介1 「コロナ分光観測がとらえたフレア前兆現象」

○分光観測とは
 光を波長ごとに分けることを分光という。分光した結果を、横軸を波長、縦軸を強度として描いたグラフを、スペクトルという。
 太陽コロナは、可視光線よりも波長の短い紫外線やX線を出す。そして、コロナプラズマに含まれる元素ごとに放射される紫外線やX線の波長は決まっている。したがって、スペクトルを描くと、図5のように線状の信号(輝線)が現れる。

fig5 2.PNG

図5 ひので/EISによって観測された太陽コロナの極端紫外線スペクトルの一部

 「ひので」に搭載された極端紫外線撮像分光装置(EIS)は、太陽コロナが出す極端紫外線を分光観測する装置である。極端紫外線とは、紫外線の中でも波長の短い波長域のことで、その波長域には様々なプラズマ元素が放射する輝線が多数存在している。
 これらの輝線の強度(面積)、波長(ドップラーシフト)、幅を調べると、以下のように、この輝線を出しているプラズマの運動が分かる。

fig6 2.PNG

                図6 輝線の分析(名古屋大学)
①強度(面積):プラズマの量が分かる。
②波長(ドップラーシフト):視線方向のプラズマの速度が分かる。
   上で述べたとおり、あるプラズマの出す輝線の波長は決まっている。ところが、プ
  ラズマが観測者から遠ざかって行くときには長波長側に、プラズマが観測者に近づい
  て来るときには短波長側に、実際よりもずれて観測される。このずれをドップラーシ
  フトという。このドップラーシフトを調べれば、プラズマが遠ざかって行っているの
  か、近づいて来ているのかが分かる。
③幅:速度勾配、乱流等が分かる。

[結果]
 図7で、青い丸がフレアが起こった場所である。その周辺の輝線の強度の時間変化を示したのが一番左側の列である。同じ場所のドップラーシフトから求めた視線方向の速度を示したのが真ん中の列、輝線幅を示したのが右側の列である。

fig7 2.png

         図7 ひので/EISによる分光観測(Imada et. al. 2014)
 フレアの1日前程度から、ドップラーシフトで上昇流(「速度」の図の青色:視線方向に近づいてくることを表す)の増加が観測された。約10時間前から、外周辺のコロナ構造の膨張を検出した。
 また、図8は、SOHO/EITによる画像である。これより、フレアの2時間前から高密な明るいコロナ構造がゆっくり(10 km / s)と膨張していく様子が見つかった。

fig8 2.png

        図8 SOHO/EITによる撮像(赤丸がフレア)(Imada et. al. 2014)
 今回の観測により、フレアの数時間前からコロナループの拡大が観測される場合があることが分かった。このコロナループの拡大とフレア発生との因果関係の理解が急務である。もし、この因果関係が理解されればフレア予報に大きく貢献できる。

■研究紹介2 「ひので・SDO衛星がとらえたフレアトリガ磁場構造」

[先行研究] フレア発生のきっかけを与える磁場構造の数値シミュレーションによる検証
 フレアが太陽表面における「大規模な磁場のねじれ」と「大規模な磁場の磁気中性線に与えられた小規模な磁場」の相互作用(図9参照)を通して発生するという仮説に基づき、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いて100通り以上の異なる磁場構造についてフレア発生の有無を調べる数値シミュレーションを行った。
 通常、黒点は2個ペアで現れ、片方がN極、もう片方がS極で、N極からS極へ磁力線のループを描くことができる。これをここでは「大規模な磁場の磁力線」と呼ぶ。黒点の回転運動などにより、この「大規模な磁場」にねじれ(シア)が生じる。そのねじれの角度を「シア角」と呼ぶ。この大規模な磁場のN極とS極の境目の線のことを「磁気中性線」という。ここで、磁気中性線上に小規模な磁場を与える。この小規模な磁場がフレアのきっかけ(トリガ)となると考えられるので、この小規模な磁場を「トリガ磁場」と呼ぶ。このトリガ磁場の大規模磁場に対する回転の角度を「方位角」と呼ぶ(図9参照)。

fig9 2.PNG

        図9 「大規模な磁場」と「小規模な磁場」の模式図(名古屋大学)
 数値シミュレーションの結果をまとめたのが、図10である。□で表したシア角と方位角の組み合わせではフレアは起こらないが、ピンク色および青色の◇で表したシア角と方位角の組み合わせのときにはフレアが発生するという結果になった。すなわち、「逆極性型」または「反シア型」と呼ばれる2種類の特殊な構造を持つ小規模な磁場が存在したときにフレアが発生することを見出した。

   「逆極性型」:大規模磁場の極性と逆向きの小規模磁場がある構造
   「反シア型」:シア磁場に反する向きの小規模磁場がある構造

fig10 2.png

図10 数値シミュレーションの結果(名古屋大学)

[今回の研究] 上記の数値シミュレーションの結果の観測的検証を行った。

[研究①] 4つのフレアの「ひので」衛星による観測データの解析を行った。

 上記の数値シミュレーションの結果から、次のフレア発生シナリオが示唆される。
1. 黒点の主たる磁気中性線付近に、トリガ磁場が現れる。
2. トリガ磁場と黒点の主たる磁場の磁気リコネクションが徐々に進行する。
3. フレア発生:トリガ磁場を中心として、シアしたフレアリボンが現れる。

fig11 2.PNG

図11 数値シミュレーションの結果から示唆されるフレア発生シナリオ(名古屋大学)

 実際のフレア発生の際の観測データについて、このシナリオの逆順をたどって検証した。すなわち、まず、3.の過程について、太陽低層大気(彩層)の撮像データから、シアしたフレアリボンが見られるか調べた。また、太陽表面(光球)の磁場の撮像データから、フレアリボンの中心に特徴的な磁場構造(トリガ磁場)が存在するか調べた。次に2.の過程について、磁気リコネクションにより、彩層中の物質が加熱された結果、トリガ磁場の上空では、明るい発光が断続的に観測されると予想される。この発光を見つけた。

[結果]

 4つのフレアすべてについて、トリガ磁場が特定できた。内、2つは逆極性型、2つは反シア型に当てはまった。

○逆極性型の例:2006年12月13日発生の大規模フレア

fig12 2.PNG

図12 逆極性型の例:2006年12月13日発生の大規模フレア(国立天文台/JAXA/名古屋大学)

・フレア発生時に、シアしたフレアリボンが見られた。
・フレアリボンの中心に、黒点とは逆のS極・N極のパターンを持つ磁場構造が見られた。
  →逆極性型の特徴に一致
・フレア前に、逆極性型の特徴を持つ磁場構造の磁気中性線上に断続的な発光が見られた。

○反シア型の例:2011年2月13日発生の中規模フレア

fig13 2.PNG

図13 反シア型の例:2011年2月13日発生の中規模フレア(国立天文台/JAXA/名古屋大学)

・フレア発生時に、シアしたフレアリボンが見られた。
・フレアリボンの中心に、黒点のシアの向きに反する向きを持った磁場構造が見られた。
  →反シア型の特徴に一致
・フレア前に、反シア型の特徴を持つ磁場構造の磁気中性線上で断続的な発光が見られた。

[研究②] 逆極性型と反シア型のフレアをトリガする磁場構造について、一般性があるかを明らかにするには、多数のフレアを統計的に調査する必要がある。しかし、「ひので」衛星は視野が狭く、太陽面のどこでいつ発生するかが分からない大フレアを観測することは簡単ではない。一方で、宇宙天気予報研究のためにNASAが2010年に打ち上げたSDO(ソーラー・ダイナミクス・オブザーバトリー)衛星は太陽全面を常時観測する衛星であり、ほぼ全ての大フレアを観測している。そのため、統計的調査を行う上で有用である。しかし、SDO衛星の磁場の測定精度、空間分解能は「ひので」衛星ほど良くはない。そこで、SDO衛星データのフレアトリガ研究への応用可能性を評価するため、上で述べた「ひので」衛星でトリガ磁場を特定した手法をSDO衛星に適用し、トリガ磁場を検出可能か検討した。トリガ磁場が比較的大きいサイズを持つフレアについて、解析を行った。
 また、連続的な観測が可能なSDO衛星データの利点を活かし、シア角、方位角とトリガ磁場強度の時間変化を調べた。

[結果]

  • SDO衛星データを用いて、「ひので」衛星データと同様に、トリガ磁場を見出せることを確認した。
  • シア角・方位角の条件は、フレア発生の数時間前に満たされている。しかし、その時点ではフレアは発生しない。フレア前のトリガ磁場の強度変化を見ると、シア角、方位角以外にもう1つ、磁場に関係する条件が存在する可能性が示唆された。それが何かは「ひので」・SDOのさらなる連携観測で明らかにされることが期待される。

■研究紹介3「トリガ条件の磁場構造の形成に寄与する光球ガスダイナミックスの発見」

 フレアで解放される磁場エネルギーを蓄えたシアした大規模な磁場に対して、その磁気中性線上に小さなトリガ磁場が成長することで、フレアが発現すると考えられている。2012年3月に発生した「反シア型」の巨大フレアにおいて、太陽表面におけるトリガ磁場の周辺の磁場分布および速度場を「ひので」可視光磁場望遠鏡(SOT)が詳細に観測することに成功した。この「ひので」の磁場観測から、1) 小さな双極の磁場が磁気中性線に沿って形成され(図14 赤色の円)、フレア発生の少なくとも6時間以上前から激しいガス流がその磁場に沿って励起されていること、2) 激しいガス流が徐々に双極の磁場を成長させ、その先に存在したトリガ磁場(図14 黄色の鎖線円)を徐々に押して、トリガ条件の磁場構造に向けて磁場配置を変化させていること、等を発見した。発見されたガス流は音速程度の激しいガス流である。この観測結果は、光球ガスのダイナミクスがフレア発現のトリガに至らしめる上で重要な役割を果たしていることを示唆している。今後、「ひので」によって様々なフレアについて、トリガ磁場の特定とともに周辺で励起される光球ガスダイナミックスを観測することで、トリガ磁場の成因およびフレア発現に向けた過程について理解が進むと期待される。

fig14 2.png

図14 「反シア型」フレアのトリガ磁場に向かった流れる光球ガス流。黄色の線はフレアリボンの位置。(ISAS/JAXA)

■次世代太陽観測衛星SOLAR-Cの科学的ねらい

 SOLAR-Cは、2020年代前半に日本主導で実現を目指す国際フラッグシップ機である。日本の太陽関連研究者らが主導して、欧米の研究者も多数参加して、ミッション目的の先鋭化やミッションの概念検討を進めてきた。

[SOLAR-Cの特徴]

  • 光球からコロナまでを隙間なく観測
  • 微小磁束をとらえる最高分解能観測
  • 光球に加えて彩層における磁場や速度場を直接計測できる高精度の偏光分光観測

○SOLAR-Cによる爆発機構の解明と予測
 フレアの発現機構の解明は、SOLAR-Cの科学目的の一つである。SOLAR-Cでは、磁気リコネクションが起こる彩層の磁場を直接測定する。また、彩層磁場を測定すれば、その上空のコロナの磁場は推測できる。これにより、太陽面爆発の予測のために必要な知見を獲得する。

○その他のSOLAR-Cの目的

  • 太陽表面からコロナへのエネルギーとプラズマの流れを定量的に測定し、彩層とコロナがなぜ造られるのかを解明する。
  • 太陽表面の微小磁気要素の放射スペクトルを精密に測定することによって、太陽放射の変動メカニズムを解明する。 

参考文献:
http://pasj.oxfordjournals.org/content/66/SP1.toc
研究成果1:Imada, S., Bamba, Y., Kusano, Y. "Coronal behavior before the large flare onset," 2014, Publ Astron Soc Jpn (December 2014) 66 (SP1), S17, doi:10.1093/pasj/psu092
研究成果2:Bamba, Y., Kusano, K., Imada, S., & Iida, Y. "Comparison between Hinode/SOT and SDO/HMI, AIA Data for the Study of the Solar Flare Trigger Process," 2014, Publ Astron Soc Jpn (December 2014) 66 (SP1), S16, doi:10.1093/pasj/psu091
研究成果3:Shimizu, T., Lites, B.W., & Bamba, Y. "High-speed photospheric material flow observed at the polarity inversion line of a δ-type sunspot producing an X5.4 flare on 2012 March 7," 2014, Publ Astron Soc Jpn (December 2014) 66 (SP1), S14, doi:10.1093/pasj/psu089

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