コラム

銀河ループと『ひので』

 黒点形成、フレア爆発やコロナ質量放出などの活動現象は、対流層から浮上す る磁場と密接に関係しています。この磁場は太陽のプラズマが作り出していま す。また、太陽に限らず宇宙のプラズマは磁場を作り、天体の活動現象に密接 に関係しています。太陽は、表面で起きている現象を高い解像度で観測すること ができる唯一の恒星です。そのため、太陽という「宇宙プラズマの実験室」を観測 することで、宇宙プラズマの振舞いを理解することができます。

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名古屋大学

 図は名古屋大学が南米チリに設置した電波望遠鏡「なんてん」で観測された銀河系 (天の川銀河)中心部の分子雲ループです(詳しい観測結果は 2006年10月6日付けの米科学誌サイエンス に発表されました)。 この銀河ループは太陽で見られるループ とよく似ていますが、ループのサイズは約600pc(2000光年)で太陽で見られるループ よりも1兆倍も大きいです。しかし、ループの起源は太陽のループと同じ磁気 ループモデル で説明することができます。銀河ループも、太陽のループと同じ原理(パーカー 不安定) で表面(銀河円盤)から浮上してきたものです。

 この銀河ループの発見は、長年の謎とされてきた銀河系中心部での分子雲の 激しい運動と、高い温度を説明できると考えられています。さらに太陽のループが 太陽の活動現象と関係し、地球に影響を与えているように、銀河のループも銀河の 活動現象(星形成など)や周りのガスの運動に関係していると言われています。

 太陽では、ループが対流層から表面の光球、その上の彩層、コロナへと浮上して 行く様子を見ることができます。このように太陽ではループの形成過程を観測する ことができるので、銀河ループの形成過程へと応用することも可能です。また、 ループが浮上する際に磁場と磁場がつなぎ変わる現象(磁気リコネクション)が 見られます。銀河でも同じような現象が起こっているはずです。今後、太陽と 同じような現象が発見されるかもしれません。

 銀河のループの詳しい観測は、まだガスの一部の分子が出す電波でしか行われ ていません。しかし、太陽を観測する「ひので」は様々な望遠鏡で光球から コロナにかけて磁場や速度場の観測を行ないます。今後、「ひので」の観測 から得られた結果は、銀河ループの観測や理論に役立つと期待されています。

(高橋邦生、野澤恵、福井康雄、鳥居和史)
「参考リンク」
銀河系中心部における磁気浮上「ループ」の発見 名古屋大学大学院理学研究科天体物理学研究室 プレスリリース

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