太陽観測衛星「ようこう」大気圏再突入す
2005年9月12日18時16分ごろ(日本時間)、太陽観測衛星「ようこう」は、大気圏に再突入して、燃え尽き、軌道上から消滅したことが確認されました。なお、大気圏再突入箇所は、南アジア上空(北緯24度、東経85度付近)でした。
ようこうのこれまで
太陽観測衛星「ようこう」は、1991年8月30日に、旧文部省宇宙科学研究所により、鹿児島宇宙空間観測所にて打ち上げられました (*)。打ち上げ以来、約10年もの間、太陽のX線像を観測し続けました。この結果、「ようこう」は太陽活動のほぼ一周期もの間、世界で初めて観測した人工衛星となりました。
しかし、「ようこう」は、2001年12月14日に、金環日食の観測中、姿勢制御のトラブルに見舞われました。その結果、太陽パドルに太陽光が当たらなくなり、観測機器の電源が遮断され、観測が中断されてしまいました。その後もようこうの追跡は行われ、わずかな電力を用いて観測の復旧を試みましたが、うまくいかず、観測再開の見込みなしと、2004年4月末をもって運用も終了しました。
そして、その後は衛星高度も少しずつ低下し、ついには今回の大気圏再突入にいたりました。しかし、打ち上げ以来14年、ようこうはその軌道上に存在し続けたことになります。
(*)「ようこう」打ち上げ時のさまなざまエピソードは、以下の記事に詳しく載っています。
- 太陽観測衛星「ようこう」その1(ISASニュース 2005.6 No.291)
- 太陽観測衛星「ようこう」その2(ISASニュース 2005.7 No.292)
- 太陽観測衛星「ようこう」その3(ISASニュース 2005.8 No.293)
ようこうの観測成果
ようこうの一番の観測成果は、太陽フレアのメカニズムをほぼ解明したことです。
太陽フレアとは、太陽コロナ中で起きる爆発現象で、コロナ中の磁場のエネルギーが、コロナの加熱・粒子加速・衝撃波・質量放出という形で解放される現象です。ようこうの観測により、この磁場エネルギーの解放が、磁気リコネクションという過程により起きることがあきらかになりました。磁気リコネクションとは、磁力線がつなぎかわる現象で「磁力線再結合」あるいは「磁力線消滅」とも呼ばれています。この結果として、磁場に蓄えられたエネルギーが、粒子の加速やプラズマの加熱に転化されると考えられています。ようこうの太陽フレアのX線観測により、カスプ型フレア、磁気ループ頂上の硬 X線源、X線プラズマの噴出など、磁気リコネクションが起こってなければ説明できない現象が次々と発見されました。このことから、磁気リコネクションで太陽フレアのメカニズムを説明できることが決定的となりました。
さらに、ようこうによるX線観測は、マイクロフレア、X線ジェット、コロナの再構築(リストラクチャリング)現象など数々の新現象の発見をもたらしました。これらの発見から、太陽コロナが静かなガスのかたまりではなく、太陽磁場の働きにより、数億度にいたるプラズマの加熱・光速度近くまでの粒子の加速・プラズマのダイナミックな運動が頻発していることが明らかとなりました。
また、特筆すべき成果の一つに、X線による10年間の太陽の連続観測があります。X線観測であることももちろん、人工衛星など飛翔体による太陽の10年間にわたる太陽の連続観測は世界初です。この連続観測により、太陽コロナの明るさが太陽周期にしたがって変化していることが明らかとなり、X線コロナの明るさが太陽磁場によりコントロールされていることが明らかとなりました。
このように、ようこうは、われわれに新たな太陽観をもたらしました。ようこうが明らかにしたことをまとめると、
○太陽磁場に支配されるコロナの多様な構造・ダイナミックな変動を鮮明に描き出したこと、特に、太陽フレアが磁気リコネクションと呼ばれる磁力線の消滅現象により発生していること
○太陽磁場がコロナの加熱やダイナミックな現象に本質的役割を果たしていることを明らかにし、コロナの加熱機構について多くの新しい知見を得たこと
○地磁気嵐を引き起こすコロナ大規模噴出現象(CME)の前兆をX線でとらえ,その予測可能性を実証したこと
などがあります。このほか、水星太陽面通過(1994年11月6日)や部分日食などの天文現象の観測を行ったのも、興味深いところです。
ようこうの研究成果
ようこうの研究成果は、その論文の数によって示すことができます。これまで、ようこうの研究成果を示す論文数は積算2000本にも及びます。世界的にも著名な科学論文誌であるNatureやScienceにも10編の論文が掲載されました。
また、ようこうの研究成果を元に、59名(国内29名)が博士の学位を、60名(国内のみ)が修士の学位を取得しました(数字は平成15年度末までのもの)。
一般への効果
ようこうがとらえた、ダイナミックかつ変化に富んだ姿は、研究者のみならず多くの一般の人々の関心をもひきつけるものでした。これだけ一般の注目をあびた衛星の撮った画像も珍しいといえます。宇宙研や国立天文台の一般公開で展示された数々の写真やムービーに「これが太陽!?」と感嘆の声があがったものです。また「母なる太陽」「コロナの輝きを追って」などの一般向けのビデオも制作されています。そのほか、打ち上げ早々には、アエラ(朝日新聞)にようこうの特集記事が組まれましたし、アメリカの天文雑誌「Sky&Telescope」誌では「20世紀の天体写真ベスト10」に選ばれました。
ようこうの太陽画像は、多くの教科書に成果が掲載されました。2004年に出版された「写真集太陽」柴田一成・大山真満著(裳華房)には、ようこうが捕らえた様々な現象の画像が収録されています。
「ようこう」からSolar-Bへ
2006年夏には、ようこうの後継機である、Solar-Bが打ち上げる予定です。ようこうはX線による観測でしたが、Solar-Bでは、X線に加えて、可視光・極紫外線の波長で、太陽の観測を行います。これまで、日本の太陽研究者は太陽活動期に合わせて、太陽観測衛星を打ち上げてきました。1981年に「ひのとり」、1991年に「ようこう」を打ち上げました。来年打ち上げ予定のSolar-B衛星は、太陽活動極小期に打ち上げることになりますが、2010年頃の太陽活動極大期に向けて活発になる太陽の姿を観測することになります。これまでの、ようこう打ち上げや運用の経験を活かし、ぜひともSolar-Bの打ち上げも成功し、新たな太陽の姿を捕らえたいものです。
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