開発経緯

本日の ひので 2006.9.24〜

2006年9月29日(金) @宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<ひので状態報告>
 9月29日朝より30日昼まで、衛星を安全な状態に設定し、運用スタッフは休みをとっ た。

2006年9月29日(金) (打ち上げから7日目)
@宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<ぺリジアップ マニューバ:2>
昨日からの続きです)
 しかし、この進行方向に衛星の頭を向かせる姿勢は、太陽電池 パネルに太陽光があたらない状況になるので、衛星にとって非常 に危険な姿勢なのです。いうなれば、絶食して100m走をする ようなものです。もちろん、「ひので」衛星はバッテリーを搭載 していますので、短時間であれば問題は無いのですが、ぺリジア ップマニューバが終わった後に、望遠鏡を太陽方向に向ける通常 姿勢に戻る前にバッテリーが切れてしまったら、衛星と通信がで きなくなって、衛星を失ってしまいます。そのため、ぺリジアッ プマニューバをする前には、衛星を太陽方向から進行方向に向け るためにかかる時間、高度を上げるためにスラスターを噴く時間、 再び進行方向から太陽方向に姿勢を戻す時間を地上で注意深く計 算して、所要時間がバッテリーでの動作が保障される時間以内で 終わるように計画を立てます。
 上記の計算や軌道計画の結果、今回のぺリジアップマニューバ は、テストマニューバと異なり、スラスターを噴く時間が長く、 地上と交信している時間だけでは終わらないことがわかりました。 そのため、先に衛星に計画をインプットし、自動でぺリジアップ マニューバをすることになりました。
 ぺリジアップマニューバが行われている時間、衛星管制室は緊 張に包まれます。衛星と交信はしていないので、衛星の状況はわ かりませんが、衛星が自動で行っている動作を、姿勢制御担当の 方が時おり読み上げていきます。ぺリジアップマニューバの途中 で、内之浦上空を「ひので」衛星が通過するので、早速交信を始 めます。

「AOS(交信開始)しました、
 テレメトリー(衛星状況)きました」
「スラスター噴射は終了しています。」
 (予想より早く終わっているな。)

「姿勢を太陽に向け始めました。」
 (もどってる、もどってる)

「太陽センサーに太陽が入ってきました。」
「太陽電池からの電流が増加しました。」
 (やった、うまく無事ぺリジアップマニューバー終了だ!)

交信中の管制管制室内は一喜一憂です。
衛星家業は、ほんと心臓によくないです。
 今回のぺリジアップマニューバの結果、予定通りに、 近地点高度が500km程度にあがりました。
下条圭美(国立天文台)

2006年9月28日(木) @宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<ひので状態報告>
 モーメンタムホイールの始動がされ、衛星の姿勢制御および太陽指向がモーメンタム ホイールにより行われるようになった。これにより、観測時の姿勢制御に一歩近づい た。高精度の太陽指向に必須の超高精度太陽センサー(UFSS)は、良好なデータを 送ってきている。衛星の状態は安定しており、順調である。

2006年9月28日(木)(打ち上げから6日目) @宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<ぺリジアップ マニューバ:1>
 どこまで上っていったら、我々は宇宙に行けるのでしょうか? 通常、高度100km以上のことを、我々宇宙とよんでいます。 それでは、100km以上には、空気はまったくないのでしょうか? いいえ、非常に微小ですが大気が残っています。その密度は、高 度250kmあたりで地上の一千億分の1程度です。もちろん、 限りなく真空に近い値ですが、地球を1時間半で1周してしまう 衛星では、この非常に薄い空気による抵抗を受けるのです。
 「ひので」衛星は、M−Vロケット7号機によって、軌道の中 で一番高いところ(この高い場所を日本語で遠地点、英語でアポ ジとよびます。)で高度〜680km、軌道の中で一番低いと ころ(この低い場所を日本語で近地点、英語でぺリジと呼びます) で高度〜280kmの軌道の楕円軌道に、予定通り打ち上げられ ました。この軌道のままでは。ぺリジが280kmと低いため、 空気の抵抗をうけてしまい、精密な観測ができるほど衛星の姿勢 が安定してくれません。また、抵抗があるため徐々に速度を落と し、そのうち大気圏に落ちてしまいます。このため、ぺリジの高 度を上げ、ぺリジの高度をアポジと同じ程度にする、ぺリジアッ プマニューバという軌道を変えるマニューバを行います。ただし、 いきなり400km程度高度を上げるのは衛星にとって厳しいの で、ぺリジアップマニューバを数回行って、観測に適した軌道へ 移動します。
 衛星の高度というのは、衛星の地球を回る速度で決まっています。 地球を回る速度が速ければ、遠心力は強くなり、衛星の高度を 高くすることができます。 「ひので」衛星のスラスター、とくに 軌道を変えるときに使用する強力なスラスターは、太陽を向いて いる望遠鏡と反対方向に向いてついています。このため、通常太 陽の方を向いている衛星 ( 右図(JAXA/ISAS提供)を参考) を、進行方向(図の緑色の線に沿った方向)に回してスラスター を吹かせば、軌道は上昇するわけです。

(ながくなったので、明日に続きます。) つづき

下条圭美(国立天文台)

2006年9月27日(水) @宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<ひので状態報告>
 衛星を90度回転してのスラスター噴射による、軌道高度上昇に成功した。これによ り、衛星高度は大幅に上昇した。あと2回の軌道制御により、ひので衛星は、太陽同 期軌道に入る予定である。

2006年9月27日(水) (打ち上げから5日目)
@宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<衛星運用に使われる時間>
 25日の記事で書いているように、「ひので」衛星の運用には 世界中に散らばっている衛星アンテナ局を利用して行っています。 このため、運用に日本標準時(JST)を使用していると混乱するの で、衛星に関する時間は、すべて世界協定時(UTC)を利用してい ます。詳しい世界協定時の説明は、以下の通信総合研究機構のペ ージに詳しく書かれています。
 通信総合研究機構・日本標準時プロジェクト
日本標準時プロジェクトの業務紹介
誤解を恐れずに簡単化して世界協定時をいうと、日本標準時から 9時間遅れた時計です。衛星の時間毎の状態や交信のスケジュー ルを考えるときは、日本時間から9時間引いて世界協定時に合わ せればよいのですが、疲労がたまった早朝の運用になると、瞬時 に世界協定時に反応することは難しいです。そのためか、衛星管 制室には、かならず世界協定時を表示するデジタル時計が置いて あります。
 すでにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、「ひのでホ ームページ」のメインページに、「ひので (SOLAR-B) 打ち上げ から?日目 (Y+?)」という打ち上げからの日数が表示されるよう になりました。ここで"Y"というのは、打ち上げ日を世界協定時 で示した日付(9月22日)です。同じような記号に"X"があり、 こちらは世界協定時で示した打ち上げ時刻(21時36分)を示 します。Yは0日目からカウントアップしますので、日本時間の 9月27日の12時は、Y+5になります。このY+?がいつま でもカウントアップされ、「ひので」からすばらしい太陽画像が 送られて来ることを願いつつ、観測できるように衛星を立ち上げ るため、今夜も衛星運用を行っています。
下条圭美(国立天文台)

2006年9月26日(火)@宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<ひので状態報告>
 ひので衛星のモニターおよび27日の軌道高度上昇の準備が行われた。

2006年9月26日(火) (打ち上げから4日目)
@宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<テストマニューバ>
 インターネット上のフリー百科事典である 「Wikipedia」によれば、   
 マニューバとは、航空機の機動、動き方のこと。 主に固定翼機に対して用いられる。
と書かれていますが、我々は、人工衛星の姿勢や軌道を変えたりする こともマニューバと呼んでいます。
 「ひので」衛星は、これから約2週間の間に数回のマニューバを行 い、軌道の高度を上げ、地球の昼/夜の境目を正しく飛ぶように軌道 を変えていきます。このとき使われるのが、スラスターと呼ばれる小 型のロケットです。「ひので」衛星の場合、太陽電池パネルが付いて いる四角い箱の望遠鏡と反対側(衛星のおしりの方)に計8つのノズ ルが付いてます。このノズルから推進剤を放出し、その反作用(*)で 衛星を動かします。推進剤にはヒドラジンをいう液体を利用しており、 太陽電池パネルが付いている四角い箱のかなりの空間が、この推進剤 のタンクにあてられています。
 どの程度のヒドラジンを噴射すると、どの程度衛星が動くか、地上 で実験することができません。なぜなら、地上で無重力を再現するこ とができませんし、推進剤のヒドラジンが毒性を持つためです。この ため、打ち上げ前は、コンピューター上でシミュレーションを行い、 スラスターの性能評価をします。シミュレーションによる計算は、そ れなりに正しいのですが、スラスターのバルブそれぞれにも個性があ り、実際に使って性能を見てやら無いとわからないところがあります。 また、軌道を変えるような大きなマニューバを行ったときに衛星の姿 勢が安定に保たれるか、さらにマニューバを行うための地上での準備 に不具合は無いのか等々、大きなマニューバをする前に、いろいろ調 べるべきことがあります。そのため、一度比較的小さめのマニューバ をおこなって、スラスターのみならず、地上の準備態勢を含む姿勢制 御の性能評価をします。この性能評価のためのマニューバを、我々は 「テストマニューバ」と呼んでいます。
 「ひので」衛星のテストマニューバは、もしものことを考え、地上 と交信をしている間に行われました。地上で見守る我々には、コンピ ューターの画面上で増えていく推進剤噴出時間の表示と、衛星の姿勢 を示す数字しか見えません。しかし頭のなかでは、「ひので」衛星が おしりのほうから推進剤を噴出して、がんばって飛んでいる姿が見え ました。テストマニューバは成功裏におわり、姿勢データおよび軌道 データの解析の結果、予想より効率よく姿勢や軌道を変更できること がわかりました。
次は、いよいよ本番の軌道変更マニューバです。
(*) 反作用は、中学校の理科でならいます。 以下のページにわかりやすい解説がのっています。「りかちゃんのサブノート」
下条圭美(国立天文台)

2006年9月25日(月) (打ち上げから3日目)
@宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<衛星の運用って?>
 人工衛星の運用とは、大きなアンテナを使って衛星と交信し、衛星 を操作したり、衛星が蓄積したデータを地上に降ろすことを言います。
 衛星の運用は、衛星の軌道により大きく変わります。静止軌道とい われる軌道まで上がった衛星は、地上から見て、いつも同じところに 居るので、一日中衛星と交信することができます。この利点を利用し て行われているのが、CSやBSといった衛星放送です。
 一方、「ひので」衛星のように地上から約600kmといった低軌 道を飛んでいる衛星の場合、1時間半で地球を1周してしまいます。 そのため、アンテナを衛星の方向に向かせるためには、アンテナを動 かして、衛星を追跡する必要があります。また、衛星が必ず自分のい る場所の上空を通過するとも限りません。「ひので」衛星の場合、地 球の昼と夜の境目の上空を飛んでいるので、地上のある一箇所(たと えば内之浦)で運用をする場合は、その場所の早朝と夕方の数回しか 衛星と交信することができません。そのため「ひので」衛星の運用チ ームでは、早朝の運用を担当する夜チーム(担当時間21時〜9時) と、夕方の運用を担当する昼チーム(担当時間:9時〜21時)に分 かれて運用をしています。筆者は、夜チームとして働いているので、 最初は睡魔と闘って運用をしていましたが、いまではすっかり夜人間 になってしまい、社会復帰できるか不安です。
 上空を通る衛星ですが、1時間半で地球1周を回っていますので、 上空通過1回につき、長くて8分程度しか交信する時間がありません。 この短い時間に、衛星の健康状態チェックし、観測装置の状態を調べ、 衛星の指令を送ったりと、大忙しです。打ち上げ直後の「ひので」衛 星では、内之浦だけの交信では作業が進まないので、JAXAが所有して いる、世界中に散らばっているアンテナやを利用することにより、交 信回数を増やしています。太陽観測が開始したあとは、北極圏のスバ ルバードと呼ばれる場所にあるアンテナをつかって、観測データを地 上に降ろすことを予定しています。
下条 圭美 (国立天文台)

2006年9月24日(日) (打ち上げから2日目)
@宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<衛星の姿勢>
 人間でもそうであるように、衛星にとっても姿勢は重要です。衛星 では、太陽電池パネルで発電される電気がすべてのエネルギー源です ので、パネルに太陽光があたる姿勢にすることは、衛星の生き死にか かわる重要なことです。
 一方、衛星自身が自分がどのような姿勢になっているのか知ること は意外と難しく、昔の衛星では、どの方向から太陽があたっても発 電できるように、衛星全体を太陽電池パネルで覆ったような衛星が多 くありました。「ひので」衛星では、太陽センサーを使って、太陽が 自分から見てどの方向にあるのかを調べています。この太陽センサー は、打ち上げ後680秒後から使い始められ、打ち上げ直後から、太 陽電池パネルが太陽に照らされる姿勢になりました。
 しかし、太陽観測衛星とはいえ、太陽方向がわかっただけでは観測 をはじめられません。なぜなら太陽方向は決まっても、太陽方向と直 角の方向は決まらないからです。簡単に言えば、衛星が太陽に向いて いる風車のように回ってしまう可能性があります。この動きを止める ために、「ひので」衛星では、スタートラッカーという装置を用いて、 カノープスという名の明るい星を見て姿勢を認識します。ただし、打 ち上げ直後は、スタートラッカーがカノープスの方向を向いていませ ん。そのため、スタートラッカーで得られた星空と星の地図である星 図と見合わせて、「ひので」衛星がどの方向を向いているかを地上で 調べる必要があります。さらにこの結果をつかって、スタートラッカ ーをカノープスの方向に向けて、衛星の姿勢を正しい姿勢します。こ れら姿勢の調整を、本日の運用で行いました。
 衛星管制室の一角では、JAXA/ISASの衛星姿勢系の先生と姿勢系開 発のメーカーの人々が、机に広げた星図と得られたデータとを見比べ て姿勢を議論していました。その結果、夕方には衛星の上(EISがあ る面)が太陽の北を向く、正しい姿勢になりました。
下条 圭美 (国立天文台)

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