開発経緯

写真で見るコンタミネーションとの戦い

1.コンタミネーションとは?

 コンタミネーションとは、日本語で汚染という意味です。「宇宙に行けば望遠鏡を汚すものは何もないんじゃないの?」と思うかもしれませんが、宇宙では望遠鏡自身が汚染源となって、鏡などの光学部品を汚してしまうのです。大気中と違って、真空中では圧力が低いために固体表面からガス(アウトガスと言う)が放出されます。この望遠鏡から出るアウトガスをできるだけ少なくしなければ、宇宙では望遠鏡の鏡をきれいに保つことはできません。つまり、コンタミネーションは、望遠鏡の観測できる寿命を考える上でもとても重要な問題なのです。これは、コンタミネーションと我々SOLAR-Bチームとのこれまでの壮絶な戦いについての話です。

2.アウトガスの測定

 戦うためには、まず相手を知らなければいけません。まず、望遠鏡で使う全ての材料のアウトガス量を自分達で測定することにしました。複合材料、接着剤、テープ、コネクタ、ケーブル・・・数十種類の試料をメーカーから提供してもらい、1つ1つアウトガスを測定していきました。この測定の結果で使用の可否を判断していきます。1つでも見逃せば、それが大量のアウトガスを放出して鏡を汚してしまう可能性があるのです。

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□ アウトガス測定用真空槽
寸法:内径600mm、高さ370mm
中に入っているのは、試料を入れるジグとTQCM。

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□ 水晶振動子センサー
TQCM(Thermoelectric Quartz Crystal Microbalance)
アウトガスの付着レートを測定するセンサーで、温度制御が可能です。温度は光学部品の軌道上の温度より低い温度にします。温度が低いほどガスは付着し易いので、通常は水が付着しない程度の低温、-80℃に設定していました。

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□ TQCMの測定画面
赤線が温度、青線が水晶振動子の周波数を示しています。青線が上昇するとガスが付着しているということ。

3.フライト部品のベーキング

 フライト部品は、真空中で高温(60℃〜110℃程度)にしてアウトガスを積極的に放出させて(ベーキングと言う)、ガスが枯れた状態で望遠鏡に組み込まれます。実際のフライト品のベーキングは、想像以上に過酷な作業となりました。可視光望遠鏡部品のベーキングは、フライト望遠鏡の組立が行われている間、2003年7月から2005年3月にかけて実施されました。国立天文台にある5台の真空槽をフル稼働させて、約60個に及ぶ部品を次々とベーキングして、アウトガスを測定してということを繰り返しました。アウトガスレートが設定した基準を満たしていないとベーキングを終了することはできず、短い物で1日、長い物だと2ヶ月!もの間続けることになりました。望遠鏡の開発日程には余裕などなく、ギリギリのスケジュールが組まれています。スケジュールを成り立たせるためには、ベーキングに必要な日数を正確に予測することがとても重要です。それには過去のアウトガス測定の経験が役に立ちました。実際、ベーキングが終わった部品を、その日に望遠鏡に組み込むという綱渡りのような日々が続きました。しかし、結果としてはベーキング期間が予測よりも延びたせいで望遠鏡のスケジュールを遅らせるということはほとんどなく、全ての部品のベーキングを無事に終えることができました。
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□ベーキング真空槽
(上) 内径:1.8m, 高さ:4m
(下) 内径:1.2m, 高さ:0.65m
部品の大きさに合わせて、大中小5台の真空槽を使い分けました。全て国立天文台の2つのクリーンルームの中にあります。

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contami-photo06 2.jpg 左写真は、CFRPでできた構体のベーキングのために真空槽の中にクレーンで入れているところです。
下写真は、各部品のベーキングの様子です。
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望遠鏡のカバー
熱制御フイルム
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4.地上におけるコンタミネーション管理

 望遠鏡は、もちろん組立や試験の過程でも様々な原因で汚染されます。汚染を防ぐために、それらは全てコンタミネーション管理がなされたクリーンルームの中で実施されることになります。
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□ 国立天文台のクリーンルーム
鬼のように徹底したコンタミネーション管理の結果、クリーン度は仕様がクラス10万にもかかわらず、実際はクラス100程度!!!

contami-photo10 (1) 2.jpg □ 全身を無塵衣で覆って、露出しているのは目だけです。一番の汚染源は人間です。望遠鏡はもちろん室内のどんな物品でさえ、素手で触ることは許されません。
contami-photo11 2.jpg □ 持ち込み物品も厳しく制限されます。
物品は、全てアルコールで洗浄してから持ち込みます。
contami-photo12 2.jpg □ 掃除は毎日やります。コロコロです。地道な努力が肝心です。
contami-photo13 2.jpg □ 望遠鏡にホコリが付着していないかどうか、部屋を暗くしてブラックライトで照らして検査しています。
contami-photo14 2.jpg □ 写真のようなフォールアウトプレートというガラス板を置いて、パーティクルカウンターでは測定できない大きなホコリの数を測定します。
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□ 汚染評価ミラーと真空紫外線反射率測定装置
 地上では、望遠鏡と同じ環境に汚染評価用ミラー(MgF2ミラー:Witness Mirrorと呼ぶ)を置いて、このWitness Mirrorを使って光学部品が汚染されていないかどうかチェックします。汚染物質は真空紫外線に吸収されやすいので、ライマンα光(1216Å)の反射率で評価します。使用したWitness Mirrorは、真空紫外線で80%以上の反射率を持っています。
 左上写真は、国立天文台にある真空紫外線反射率測定装置です。この装置は、放電管(水素ガスを使用)、斜入射型分光器、真空槽からなり、真空槽の中には、左下写真のようにWitness Mirrorと真空紫外線を検出可能なシリコンフォトダイオードが配置されています。
 このようにして、地上でのコンタミネーション評価をしてきましたが、今までにWitness Mirrorの汚染が確認されたことはなく、プロジェクト全員の努力によるコンタミネーション管理によって現在まで望遠鏡はきれいに保たれてきたということです。
しかし、コンタミネーションとの戦いは衛星の打ち上げまで続きます。内之浦の射場でも最後まで徹底したコンタミネーション管理がなされています。
                                        −以上−
国立天文台 先端技術センター 田村 友範

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