ひのでUFSS(超高精度太陽センサー)較正記 〜最後の決め手は扇風機〜 JAXA 宇宙科学研究本部 宇宙科学共通基礎研究系 久保 雅仁 開発当時 国立天文台SOLAR-B推進室 大学院院生(東京大学理学系研究科)
UFSS(Ultra Fine Sun Sensor、NTSpace製作)は、衛星が太陽面上のどこを見ているかを知るための2次元太陽センサーです。「写真で見る可視光磁場望遠鏡開発」に書いてある様に、「ひので」衛星の最大の特徴は、可視光磁場望遠鏡による高空間分解能観測です。高空間分解能の連続観測を行う為に、太陽センサーにはランダム誤差で1秒角(=1/3600度、3σ)、角度バイアス誤差2秒角という高い位置決定精度が要求されていました。当初考えていた較正手順は、(1)2軸ステージにUFSSを取り付ける、(2)太陽光を模擬した光源(太陽シミュレータ光源)で照らす、(3)センサーのX,Y方向にステージを回転させて、ステージの回転角度とUFSSの出力を比較するという単純なものでした。その頃の自分は、1秒角を切るような高精度で測定することがいかに困難かを知らなかったため、「面白い実験があるけど、やってみないか?」と誘われた時は、こんなに苦労するとは夢にも思っていませんでした。。。
1. まずは道具集め。
UFSSの較正試験を始める前に、まずは2軸ステージの回転精度、太陽シミュレータ光源の安定度、床の振動の影響といった測定環境を調べる必要がありました。2軸ステージと太陽シミュレータ光源は宇宙科学研究本部(ISAS)に設置されているものを使用できましたが、他の測定治具は必要に応じてどこかから借りてくるか自分で作るしかありません。当時国立天文台の大学院生だったため、不慣れでかつ様々な実験施設があるISASでの道具探しはさながら探検のようでした。
2. とりあえず測定してみると...
測定環境が良好であることを確認できたため、UFSSのプロトモデル(PM)品を使って測定しました。その結果、要求精度より一桁以上大きな誤差が周期的に出現することが見つかりました。迷光の影響や光源の光束内のムラ等も疑いましたが、大きな誤差要因ではないという確証を得たため、UFSS内の光学系の問題として検討を進めました。「問題ありそうな部分を変更→測定」ということを何度も繰り返した結果、検出器であるCCDで反射された光が、別の面で反射されて、再びCCDに戻ってきていることが原因だと突き止めました。この問題は、CCDを傾けることで解決されました。
3. ようやくゴールと思ったら...
改良したUFSSでは、誤差は格段に小さくなり、要求精度にかなり近い値になりましたが、UFSSの視野全体に渡って短周期の誤差が測定結果に見られました。この試験で使用した2軸ステージは、回転精度が非常に良いものでしたが、さらに精度良く回転角度が測定できるレーザー変位計で測定した結果、2軸ステージの出力値と実際の回転角度に微妙なズレが生じており、これが周期的なバイアス誤差の原因であることがわかりました。レーザー変位計は、自分の出したレーザー光と対象物に取り付けた反射キューブで跳ね返ってきたレーザー光の位相差から、対象物の角度を測定するものです。この結果を踏まえて、2軸ステージの回転角度を2つのレーザー変位計を使って測定するように測定系を改良しました。これで較正試験も終了!と思ったのですが、改良した測定系で測定してみると、期待したような結果は得られず、場合によっては改良前より誤差は大きくなってしまいました。
4. 最後の決め手は扇風機!
測定系で問題を生みそうな箇所を1つずつチェックしていきましたが、測定結果はあまり良くなりませんでした。当時、可視光磁場望遠鏡の組立試験にも参加していて、「精度の良い光学測定を行う場合は、光の通り道に暖かい空気や冷たい空気の塊が滞留しないように、一定の空気の流れを作ると良い」という話を耳にしました。そこで、測定系に風を送るものを探したのですが、借りられたのは古めかしい扇風機でした(図3参照)。少々荒っぽい気もしましたが、扇風機で風を送りながら測定したところ、見事に要求精度の2秒角を満たす結果が得られました(図4参照)。夜を徹して、格子状にデータを取得して、視野全体に渡ってUFSSがすばらしい精度を持つことを実証することができました。
その後、フライトモデルに対しても同じ測定系で較正試験を行い、要求精度を満たすことを確認できました。試験期間約2年、のべ実験日数にして〜100日を費やしましたが、現在は、軌道上で期待した通りの動作をしており、非常に安定した姿勢制御で「ひので」の高空間分解能観測に貢献しています。
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