ひので」の極端紫外線撮像分光望遠鏡(EIS)の ファーストライトと初期画像について
極端紫外線撮像分光望遠鏡(EIS)はその開口部に、 薄膜フィルターが設置されていて、 迷光源・熱源となる太陽からの可視光や赤外光を遮断します。 このフィルターを衛星の打上環境から保護するため、 フィルターは真空容器(クラムシェル)内に装着されていましたが、 10月27日にクラムシェルの前蓋を展開、翌28日には後側の蓋を展開して、 薄膜フィルターを光路中に露出することができました。 これにより、EIS装置内に太陽からの極端紫外線が導入されることになり、 EISのファーストライト、観測データを初めて取得することに成功しました。
極端紫外線は、波長が可視光の1/10〜1/30程度と短く、 10万度から2千万度に及ぶ高温のガスから放射される電磁波です。 太陽の場合は、主には遷移層やコロナから放射され、 その中に存在するさまざまな元素の多価イオン*からの輝線放射で光っています。 そのため太陽面にスリットをあてて分光観測をするとそれらの 輝線スペクトルを撮ることができます。 一方、幅の広いスリット(スロットと呼ぶ)を使うと、 その輝線の強度分布(即ち、その輝線で見た太陽像)を得ることができます。
*「多価イオン」:いくつも電子を剥ぎ取られた状態の原子
ファーストライト時に1秒角スリットで撮影した、 波長域:18-20nmのスペクトルを画面の下側に示します。 スリットの位置はX線望遠鏡(XRT)で撮影した太陽X線画像上に破線で示してあり、 スリットの長さ(1024秒角)方向を足し合わせたスペクトルを表示しています。 撮影されている輝線の多くは鉄元素の多価イオン(Fe+7 〜Fe+13)からの放射です。 これらの輝線の強度や輝線の輪郭を解析することにより、 高温ガスの温度分布や運動の様子を調べることができます。 露出時間と撮影された輝線の強度や輝線数などから、 EISが予定通りの感度を保有していることがわかります。 また、スペクトル線の輪郭の様子から、 EISの分光器が所期の性能を達成していることも見てとれます。
幅266秒角のスロット(長さ1024秒角)を使って、 He+(ヘリウムイオン、波長25.6nm)とFe+14 (14階電離の鉄イオン、波長28.4nm) の強い輝線を中心とする領域を切り出したものを画面の右側に示します。 XRTによるX線画像を左に並べておきます。 スロットにより観測した範囲を実線で太陽X線画像上に示しています。 He+輝線は彩層の上部から放射されていて、 彩層の特徴であるネットワーク構造を見ることができます。 一方Fe+14輝線はコロナからの放射で、 XRT画像と大変よく似た構造を示していることがわかります。 視野の南側にある活動領域のコロナループや随所に見られる X線輝点の微細な構造から推し量って、 所期の空間分解能・2秒角が達成できているものと考えられます。
スロットの観測では、 ガスの運動による輝線の波長情報と空間的な位置情報が混ざって撮影されます。 また周りにある無数の輝度の弱い他の輝線も混ざって観測されてしまいますので、 ここで示した画像は、完全にはH+やFe+14輝線の強度分布 を示しているというわけではありません。 40秒角のスロット を使えば、輝線の重なり具合は軽減され、 よりクリーンな輝線強度分布を得ることもできます。 また幅の細いスリット**を太陽面上動かして、 輝線の空間位置と波長位置の情報を分離して観測する方法(ラスタースキャン) も有効な手段ですので、その機能試験を順次行っていく予定にしています。
以上により、EISはその前身機であるSOHO衛星の CDS/06NISと比較すると、 空間分解能で約3倍、波長分解能で3倍以上、感度(有効面積)で約10倍という、 打ち上げ前にお約束した性能をほぼ達成することができました。 これは国立天文台が、Solar-B計画の初期から一貫して極端紫外線の分光観 測の必要性を提唱し、高感度を得るために必要な「2回反射」光学系の採 用を促し、またEIS分光器の設計に深く関与したことが実を結んだもので あります。更にこの高性能観測機器を衛星システム上に実現させるため に、国立天文台の担当者が細心の注意を払いつつ、地道に性能確認試験を 行ってきた成果の現れであるということもできます。今後私達は、これま で全く目にしたことのないダイナミックな新しい太陽像を明らかにしてい くことができるものと確信しています。
**「幅の細いスリット」:EISには幅が1、2、40、266秒角の4つのスリット/スロットがある。
なお、極端紫外線撮像分光望遠鏡(EIS)はJAXA、NASA、PPARCの予算機関の協力の下、 電気系と機器組上はMSSL/UCL(英国・ロンドン大学マラード宇宙科学研究所)、 筐体はU. Birmingham(英国・バーミンガム大学)、 地上試験・較正はRAL(英国・ラザフォードアップルトン研究所)、 光学系並びに 可動部機構をGSFC(米国・ゴダード宇宙センター)の協力を得て NRL(米国・海軍研究所)、 観測QL(クイックルック)システムをU. Oslo(ノルウェイ・オスロ大学)が分担し、 国立天文台がJAXAと協力して衛星インターフェースを担当して 開発・製作した国際協力機器です。 また、「ひので」の運用は、観測装置開発に参加した日・米・英の研究機関に加え、欧州宇宙機構(ESA)の国際協力により行われています。
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