研究成果

「ひので」搭載可視光・磁場望遠鏡の初期成果

自然科学研究機構 国立天文台
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部
米国航空宇宙局

 2006年9月23日に打ち上げられた第22号科学衛星「ひので」(SOLAR-B)は、順調に試験観測を継続しています。「ひので」に搭載された可視光・磁場望遠鏡(以下、可視光望遠鏡と略記)は、我が国の先端的宇宙光学技術を駆使することにより、世界に先駆けて実現したユニークな装置です。これまで世界で宇宙に打ち上げられた太陽観測望遠鏡としては最も分解能が高い性能を実現し、いわば、太陽を調べるための「顕微鏡」とも言える観測装置です。その観測は、世界的にも注目を集めています。

 可視光望遠鏡は、望遠鏡部を国立天文台と三菱電機が中心となって、焦点面観測装置部を米国航空宇宙局から製作を請け負ったロッキードマーチン社が中心となって開発したものです。可視光望遠鏡部の組立試験及び日米開発部分を結合しての可視光望遠鏡全体の光学性能試験は、国立天文台のクリーンルームにて行われ、その完成は2004年8月27日に国立天文台が主導して行った記者会見で報告いたしました。また、宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部は、衛星プロジェクト全体のとりまとめを担当しました。

 可視光望遠鏡の特徴のひとつは、0.2〜0.3秒角(太陽面で140kmから210kmに対応)という高空間分解能で、太陽の磁場を1日24時間観測できる点です。太陽表面で起こるさまざまな活動現象の鍵を握っている磁場の精密観測やダイナミックな現象を捉える連続観測に関しては、安定した連続観測が必要であり、地球大気の影響を受けない「ひので」衛星の独壇場となっています。

 可視光望遠鏡は、10月25日の主ドア展開により、ファーストライト観測を実施しました。そして、波長430ナノメーターで0.2秒角という理論的に達成できる限界解像度を達成しているのを確認しました。さらに、画像安定化装置を動作させ磁場観測に必要な分解能0.01秒角の安定度を達成しました。その結果、これまで世界的に得られたことのない画期的な画像の取得に成功しました。

 先にも述べたように、可視光望遠鏡は、我が国の先端的宇宙光学技術を駆使することにより、世界に先駆けて実現したユニークな装置です。今回、可視光望遠鏡が軌道上の要求仕様を完全に満足する回折限界性能・像安定化性能を達成できたことは、我国の高度な宇宙開発のレベルを示すものであり、今後の日本の宇宙開発のあらたな契機となるものです。

今回の記者会見では、可視光望遠鏡の性能、つまり、高い空間分解能と安定した連続観測性能を端的に表す観測データとして、太陽のダイナミックな変化を示す次のようなムービー画像を公開いたします。

  1. 波長430ナノメーター(Gバンド)および397ナノメーター(カルシウムのH線)で取られた太陽の光球上部および彩層の回折限界ムービー画像
  2. 微細磁気要素(微小な黒点で、黒点とは逆に明るく見える)のダイナミックな生成・消滅、黒点の周囲で拡散していく様子を示す磁場のムービー画像
  3. 関連するX線望遠鏡、極端紫外線撮像分光装置の観測データ

以下に、公開の概要を示します。

可視光望遠鏡による「顕微鏡」観測

 「ひので」可視光望遠鏡は、これまで宇宙に打ち上げられた太陽観測望遠鏡としては最も分解能が高く、いわば、太陽を調べるための「顕微鏡」とも言える観測装置です。黒点よりもさらに小さな構造を詳しく調べることで、太陽表面で起こるダイナミックな現象の理解が可能となります。
(図1右図中の地球の図の下にある四角い囲みは、図3,図4 の範囲を示しています)

1127press-fig1 2.png[図1] (左)SOHO(ESA&NASA)、(右)国立天文台/JAXA

回折限界性能達成

 望遠鏡の空間分解能は主鏡の口径で決まる理論的な限界(回折限界)があります。口径50cmの望遠鏡では、波長400ナノメーターで約0.2秒角の分解能が限界となります。これは太陽表面では約140kmに対応します。粒状斑や、その間にある微細磁気要素に対応した輝点が、「ひので」可視光望遠鏡によって鮮明に捉えられました。これによって、望遠鏡が所定の回折限界性能を達成していることが証明されました。

       1127press-fig2a 2.png

                     [図2]

地上観測より優れた安定性

 地上では大気ゆらぎのため、ほとんどがぶれた画像になってしまいます。この影響は短い波長ほど顕著で、粒状斑や輝点を連続的に観測できるのは非常に稀です。「ひので」可視光望遠鏡は、大気の影響を受けない宇宙から、長時間にわたって安定した観測をすることができます。太陽で起こるダイナミックな現象を逃さず捉えることが可能です。

       1127press-fig3.png

                     [図3]

彩層加熱の謎解明へ

 「ひので」可視光望遠鏡により、0.2秒角での光球、彩層同時観測が初めて可能となりました。Gバンドで見られる輝点は、磁場の強いところに対応し、彩層でも明るく、加熱が起こっていることがわかります。輝点以外では、光球と彩層の明暗が逆転しています。「ひので」によって彩層加熱の謎の解明が期待されます。

       1127press-fig4 2.png

                    [図4]

高解像度画像 : カラー   白黒
ムービー: 

          (カラー)               (白黒)

「ひので」が捉えた黒点周辺の磁気活動

 「ひので」可視光望遠鏡は、観測するフィルターを切り替えることで、光球での磁場分布や、光球より上空の彩層を同時に観測することが可能です。これによって、黒点の周囲(補足2)で磁場が引き起こす加熱現象や爆発(フレア)、ジェットといったダイナミックな現象を詳細に調べることが可能になります。磁場の分布では、白い部分はN極、黒い部分はS極の磁場を表しています。黒点には約3000ガウスという極めて強い磁場が存在します(補足2) 。黒点の外でも、約1000ガウス(地球の磁場は0.3ガウス)の磁場が局所的に存在していることが特徴です。
カルシウムH線では、光球よりも上層にある彩層大気を見ることができます。明るく見える場所は周囲よりも温度が高いことを示しており、強い磁場が集中している場所に対応していることが分かります。磁場が加熱の原因となっていることを示唆しています。

      1127press-fig5 2.png

                    [図5]

高解像度画像: カラー.png 白黒.png

 この黒点領域では、周りに小黒点や輝点が黒点半暗部から外向きに移動していく現象が、黒点の周囲全体に渡って観測されました。これは黒点が崩壊していく現場を捉えたものです。この運動に伴い、彩層では無数の小さな増光や爆発(フレア)が発生していることが分かりました。磁気エネルギーの蓄積、解放の仕組みの謎解明に迫る画期的なデータを取得することができました。下図はカルシウムH線で捕らえたフレア像です。

      1127press-fig6a 2.png

                    [図6]

ムービー:

     

           (カラー)                (白黒)

黒点周囲のダイナミックな噴出現象

 黒点が太陽の縁にあるときに、横からカルシウムH線で観測したものです。黒点の周囲で頻繁に増光が発生し、それに伴って物質が上空へダイナミックに噴き上げられている様子が克明に捉えられました。これは、大気や望遠鏡自身による散乱光の影響が極めて小さいことによって、「ひので」可視光望遠鏡が世界で始めて観測に成功したものです。

     1127press-fig7 2.png

                   [図7]

高解像度画像: カラー1.png 白黒1.png

ムービー

     

         (カラー)                 (白黒)

X線望遠鏡、極端紫外線撮像分光装置との協調観測

 「ひので」に搭載されているX線望遠鏡、極端紫外線撮像分光装置により彩層上空の数百万度のコロナを、可視光望遠鏡が観測する光球、彩層と同時に観測できます。下図は、X線望遠鏡で見たコロナと可視光望遠鏡で得た光球の磁場を示しています。磁場のN極(白)とS極(黒)をつなぐコロナのループ構造をはっきりと見ることができます。活動現象のエネルギーの源である光球の磁場変化と、エネルギーの解放の現場となるコロナの変化の関係を調べることにより、活動現象が起こる仕組み、コロナ加熱の謎解明が期待できます。

      1127press-fig8 2.png

                 [図8]

ムービー:
X線望遠鏡によるコロナと可視光・磁場望遠鏡による磁場分布

      

資料

記者発表概要.pdf (2006.11.25)
発表ファイル

  1. ひので可視光・磁場望遠鏡.pdf (pdf: 2,476kB)
  2. 「ひので」搭載可視光・磁場望遠鏡で得られた太陽高空間分解能画像.pdf (pdf: 2,184kB)
  3. 「ひので」3つの観測機器の連携による相乗効果.pdf (pdf : 1,649kB)

(参考ムービー)

 (白黒) 

       

Gバンドで観測された粒状斑を拡大したもの。

当ページの画像、映像のご利用については、こちらをご覧ください。当ページの画像、映像でクレジットが明記されていないもののクレジットは『国立天文台/JAXA』です。当ページ内の、クレジットが『国立天文台/JAXA』、『国立天文台/JAXA/MSU』および『国立天文台、JAXA、NASA/MSFC』である著作物については、国立天文台が単独で著作権を有する著作物の利用条件と同様とします。著作物のご利用にあたっては、クレジットの記載をお願いいたします。なお、報道機関、出版物におけるご利用の場合には、ご利用になった旨を事後でも結構ですのでご連絡いただけますと幸いです。ご連絡はsolar_helpdesk(at)ml.nao.ac.jp((at)は@に置き換えてください)にお願いいたします。

page top