研究成果

黒点形成時に発生する爆発・ジェット現象の仕組みを解明

自然科学研究機構 国立天文台
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所
ロッキードマーチン太陽天体物理学研究所


[発表概要]
 太陽の表面に暗い影のように現れる黒点は、地球を上回る大きさの強力な磁場のかたまりです。黒点はときに大規模な爆発現象(太陽フレア)を起こすことがあり、私たちの地球環境にも多大な影響を与えうる存在です。そのため、黒点磁場の解明は天文学における重要課題のひとつとされてきました。たとえば、黒点が形成・成長していくときの磁場のはたらきには多くの謎が残されています。また、黒点が作られる際には突発的な小規模爆発現象やジェット噴出が盛んに発生することがありますが、この仕組みもよく分かっていませんでした。

 この謎に挑むため、国立天文台の鳥海 森(とりうみ しん)特任助教を中心とする国際研究チームは、日本の太陽観測衛星「ひので」とアメリカの太陽観測衛星「IRIS(アイリス)」「SDO」を用いて太陽黒点の共同観測を行うとともに、スーパーコンピュータによる詳細なシミュレーションを組み合わせた研究を行いました。そして、黒点形成時に現れる、明るく細長い構造(ライトブリッジ)とその周辺の直交する磁場構造が爆発現象やジェット噴出を引き起こしていることを明らかにしました。これは、太陽内部における磁場の発達、太陽表面における黒点の形成、太陽上空における活動現象(爆発やジェットなど)の密接な関わりを、観測とシミュレーションの両面から初めて3次元的に解明した画期的な成果です。さらに、本研究は長年課題とされてきた黒点形成過程の解明に、観測とシミュレーションの組み合わせが有効であることを示しています。本研究の成果は米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」811巻137番、138番として掲載されました。

[背景]
 太陽の表面に出現する巨大な暗い構造である黒点には、強力な磁場が存在しています。この強い磁場が対流を抑えることで熱の輸送が妨げられるため、黒点は周囲と比べて温度が低く、暗く見えるのです。黒点は、太陽の内部から磁力線の束(磁束)が表面へと浮上した結果、作られるのだと考えられています。17世紀初頭にはじめて望遠鏡を使って黒点を観測したガリレオは、複数の小さな黒点が合体して大きな黒点に成長していくことを報告しています。小黒点が合体するとき、それらの間に「ライトブリッジ」と呼ばれる明るく細長い構造が現れ、太陽表面より上空には爆発現象やジェット噴出が繰り返し発生することがあります。これらの構造や現象は、太陽表面に磁束が浮上し、大きな黒点が作られていく過程を理解する上で重要な要素と言えます。

[研究の内容]
 鳥海特任助教らは、日本の太陽観測衛星「ひので」やアメリカの太陽観測衛星「IRIS」「SDO」を用いて黒点形成の様子を詳しく観測し、スーパーコンピュータによる詳細な黒点形成のシミュレーションと組み合わせることで、「どのように小黒点が合体して黒点が作られるのか?」「なぜ小黒点の間で爆発やジェットが起きるのか?」という謎に迫りました(図1)。

fig1 2.png
図1:(左)「ひので」による形成中の黒点の観測。合体しつつある小黒点(暗い部分)の間に「ライトブリッジ」と呼ばれる明るく細長い構造が現れている。白枠は図2(左上)、(左下)の視野を表す。(右)黒点形成シミュレーションの結果。観測とよく似たライトブリッジが小黒点の間に形成されている。白枠は図3(左上)、(左下)の視野を表す。(クレジット:国立天文台/JAXA/LMSAL/NASA)

 はじめに、衛星観測データを解析し、小黒点やライトブリッジの詳細な磁場構造や、爆発・ジェット噴出のメカニズムを突き止めました(図2)。「ひので」による高精度の太陽表面磁場観測から、接近する2つの小黒点には垂直に立った強い磁場が存在する一方、間に挟まれたライトブリッジには水平な弱い磁場が存在していることが分かりました。また、「IRIS」によるライトブリッジ上空の観測データからは、突発的な爆発やジェット噴出が、「磁気リコネクション」と呼ばれる磁力線のつなぎ替えによって、繰り返し発生していることが分かりました。ライトブリッジの水平磁場と、それを取り囲む小黒点の垂直磁場が何度もリコネクションを起こすことで、突発的な活動現象(爆発現象やジェット噴出)が繰り返し発生したのだと考えられます。

fig2 2.png
図2:衛星観測データの解析結果。(左上)「IRIS」によるライトブリッジ上空の観測。爆発現象やジェット噴出が「磁気リコネクション」というメカニズムによって発生している。(左下)「ひので」による太陽表面の磁場観測。画像の色は磁場の向きを表しており小黒点には表面に垂直な磁場(赤色)が、ライトブリッジには水平な磁場(青色)が存在している。(右)観測結果をまとめたイラスト。ライトブリッジの水平磁場と小黒点の垂直磁場がリコネクションを起こすことで爆発やジェットが発生している。(クレジット:国立天文台/JAXA/NASA)

 では、このような特殊な磁場構造はどのようにして作られたのでしょうか。黒点磁場は、太陽の内部から磁束が浮上することによって作られると考えられています。したがって、この謎を解明するには直接光学観測のできない表面下の様子を探る必要があり、このことが黒点研究が困難である理由のひとつでした。

 この難題を解決したのが、スーパーコンピュータを用いた数値シミュレーションです。このシミュレーションでは、太陽内部を浮上してきた磁束が、しだいに黒点を形成していく様子を高精度に計算しています。実際に、衛星観測と非常によく似たライトブリッジや小黒点が再現されました(図3)。シミュレーション結果を詳しく解析したところ、太陽表面で小黒点を形成する2つの垂直な磁束が、黒点形成にともなって太陽内部で互いに接近していく際に、弱い水平磁場を持ったプラズマのかたまりを挟み込んでいる様子が明らかになりました(図4)。このプラズマのかたまりこそが、ライトブリッジの正体なのです。すなわち、黒点形成の際に見られるライトブリッジは、強い垂直磁場を持った小黒点(太陽内部から浮上してきた磁束)が合体するときに、弱い水平磁場を持ったプラズマを挟み込むことによって作られる構造だったのです。

fig3 (1) 2.png
図3:シミュレーションデータの解析結果。(左上)ライトブリッジの上空には強い電流が存在している。これは磁気リコネクションが発生しやすいことを示す。(左下)シミュレーションから得られた太陽表面磁場。画像の色は磁場の向きを表している。小黒点には垂直磁場(赤色~黄色)があり、ライトブリッジには水平磁場(青色)が存在する。(右)シミュレーション結果をまとめたイラスト。衛星観測と同様に、ライトブリッジの水平磁場が小黒点の垂直磁場に挟まれており、その上空ではリコネクションの指標となる強い電流が存在している。(クレジット:国立天文台/LMSAL/NASA)
fig4 (1) 2.png

図4:ライトブリッジ周辺の3次元磁力線図。(左)太陽内部から磁力線が伸び、太陽表面に出現している。(中)ライトブリッジ周辺を上空から見た様子。ライトブリッジの水平磁場(水色)が小黒点の垂直磁場(赤色)に挟まれている。(右)太陽内部には二股に分かれた磁束(太陽表面では小黒点を作る)が伸びている様子が見られる。これらの磁束の間には弱い磁場を持ったプラズマのかたまりが挟み込まれている。(下)様々な角度から3次元磁力線図を眺めてムービーにしたもの。(クレジット:国立天文台/LMSAL/NASA)

 これらの結果から、「どのように小黒点が合体して黒点が作られるのか?」「なぜ小黒点の間で爆発やジェットが起きるのか?」という疑問には、次のように答えることができます(図5)。まず、太陽の内部から磁束が浮上し、太陽表面に複数の小黒点として現れます。強い垂直な磁場を持ったこれらの小黒点は互いに接近し、ひとつの黒点を形成しようとします。しかし、小黒点どうしの間には、弱い水平な磁場を持ったプラズマが挟み込まれています(ライトブリッジ)。このとき、小黒点とライトブリッジの磁力線が繰り返しリコネクションを起こすことで、突発的な爆発現象やジェット噴出がライトブリッジの上空で発生するのです。接近する小黒点はしだいに合体してひとつの大きな黒点になります。こうして、間に挟まれたライトブリッジは消滅し、爆発やジェット現象も弱まっていくのだと考えられます。

fig5 2.png
図5:黒点形成時に発生する爆発・ジェット現象の仕組み。太線が磁力線を表す。(左)太陽の内部から磁束が浮上し、表面を突破すると小黒点として現れる。小黒点は、ひとつの大きな黒点を形成するために、互いに接近する。(右)合体しつつある小黒点の間には弱い水平な磁場が挟み込まれ、ライトブリッジが形成される。ライトブリッジの水平磁場は小黒点の強い垂直磁場と繰り返し磁気リコネクションを起こし、その結果、ライトブリッジの上空で爆発現象やジェット噴出が発生する。(クレジット:国立天文台)

[研究の意義]
 本研究では、黒点形成時に見られる活動現象には、太陽内部に根ざした黒点磁場が大きく関与している可能性が明らかになりました。本研究の意義は、日米の高性能な人工衛星による詳細な観測という「目」と、私たちには見えない太陽表面下の磁場を計算する数値シミュレーションという「目」を複合的に組み合わせることで、太陽内部の磁束浮上、太陽表面の黒点形成、太陽上空の活動現象(爆発やジェット噴出など)の関係性を3次元的に調べたことにあります。また、これまで課題とされてきた黒点形成過程の解明には、観測とシミュレーションの組み合わせが有効であることを本研究は示しています。近年では太陽以外の恒星黒点についても研究が盛んになっており、それゆえ、太陽黒点を理解する必要性はますます高まっていると言えます。観測機器やコンピュータシミュレーションの向上とともに、今後さらに黒点形成や活動現象のメカニズム解明が進むものと期待されます。

[論文]
題目:Light Bridge in a Developing Active Region. I. Observation of Light Bridge and its Dynamic Activity Phenomena
著者:鳥海 森、勝川行雄(国立天文台)、Mark C. M. Cheung(ロッキードマーチン太陽天体物理学研究所)
掲載誌:The Astrophysical Journal 811巻137番

題目:Light Bridge in a Developing Active Region. II. Numerical Simulation of Flux Emergence and Light Bridge Formation
著者:鳥海 森(国立天文台)、Mark C. M. Cheung(ロッキードマーチン太陽天体物理学研究所)、勝川行雄(国立天文台)
掲載誌:The Astrophysical Journal 811巻138番

[謝辞]
本研究は以下の研究費の助成を受けています。
JSPS科研費:26887046・研究スタート支援・鳥海 森
JSPS科研費:25220703・基盤研究S・常田佐久
NASA contract: NNG09FA40C (IRIS), NNG04EA00C (SDO/AIA), NNM07AA01C (Hinode/SOT)
NASA grant: NNX14AI14G (Heliophysics Grand Challenges Research)

[用語解説]
 太陽フレア:太陽表面で発生する、現在の太陽系では最大規模の爆発現象。さまざまな波長の電磁波が突発的に増大するとともに、宇宙空間へ高速のプラズマ雲が放出されることがある。太陽黒点は特に大規模なフレアを起こすことで、地球にも影響を与える可能性がある。

 ライトブリッジ:黒点の暗部(中心付近の特に暗い部分)を分割する明るく細長い構造。黒点が成長する時と崩壊する時に見られる。本研究では、小黒点が合体する際に現れるライトブリッジを対象としている。
 これまでもライトブリッジの磁場構造についてはさまざまな研究が行われてきた(参考:恒常的に発生する彩層ジェット現象を発見)。本研究は、多様な観測機器を用い、数値シミュレーションを組み合わせることで、ライトブリッジの形成過程を解き明かした初めての研究である。

 磁気リコネクション(磁力線再結合):向きの異なる磁力線が互いに接近し、つなぎ替わることで、磁気エネルギーを運動エネルギーや熱エネルギーに変換する物理過程。太陽フレアにおけるエネルギー解放メカニズムの有力な候補。

fig6 (1) 2.PNG
図6 磁気リコネクションの概念図:向きの異なる磁力線(1-1'と2-2')が接近し、つなぎ変わっている(1-2と1'-2')。このとき、磁場のエネルギーが熱や運動エネルギーに短時間で変換される。(クレジット:国立天文台)
[注] 磁気リコネクション後の一番右側の磁力線の矢印の向きが間違っておりましたので、訂正いたしました。(2015年10月1日)

当ページの画像、映像のご利用については、こちらをご覧ください。当ページの画像、映像でクレジットが明記されていないもののクレジットは『国立天文台/JAXA』です。当ページ内の、クレジットが『国立天文台/JAXA』、『国立天文台/JAXA/MSU』および『国立天文台、JAXA、NASA/MSFC』である著作物については、国立天文台が単独で著作権を有する著作物の利用条件と同様とします。著作物のご利用にあたっては、クレジットの記載をお願いいたします。なお、報道機関、出版物におけるご利用の場合には、ご利用になった旨を事後でも結構ですのでご連絡いただけますと幸いです。ご連絡はsolar_helpdesk(at)ml.nao.ac.jp((at)は@に置き換えてください)にお願いいたします。

page top