太陽観測衛星「ひので」による観測で白色光フレアの起源が明らかに!
宇宙航空研究開発機構
自然科学研究機構 国立天文台
米国航空宇宙局 (NASA)
英国科学技術会議 (STFC)
欧州宇宙機関 (ESA)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の渡邉恭子(わたなべ・きょうこ)研究員が率いる国際研究チームは、JAXAが打ち上げた太陽観測衛星「ひので」とNASAの太陽観測衛星RHESSIが同時観測に成功したXクラス(最大規模)の太陽フレアの解析を行い、発見後150年来の謎であったフレアの白色光の起源が、高速に加速された電子によるものであることを明らかにしました。この成果は、『アストロフィジカル・ジャーナル(The Astrophysical Journal)』誌の5月20日号に掲載されます。
「太陽フレア」とは、太陽表面付近のコロナから出るX線や彩層から出るスペクトル線(水素のHα線やカルシウムのH線など)を通じて主に観測される、太陽系最大の爆発現象です。特に強いフレアでは、白色光(可視連続光)、つまり人間の目で見える光でも爆発に伴う増光が観測されることがあり、「白色光フレア」と呼ばれます。もともと太陽フレアは1859年にイギリスの天文学者キャリントンが黒点のスケッチ中に白色光の増光として偶然発見したもので、この時のフレアは現在の分類では白色光フレアに相当すると考えられています。しかし、白色光フレアは稀な現象であったため、本格的な太陽フレアの観測が始まったのは、20世紀以降、スペクトロヘリオグラフが発明され、Hαのスペクトル線で彩層フレアを観測できるようになってからのことです。1960年代以降になると、太陽フレアの観測は、天文観測衛星によるX線観測や地上での電波観測が中心になりました。
このように太陽フレアでの白色光発光は、太陽フレアの発見当初から知られていた現象ですが、この「白色光」の発生メカニズムは、長年にわたり謎でした。それは、従来の地上観測では測光精度があまり高くなく、白色光での増光が認められる観測例がごく少数にとどまっていたからです。しかし、2006年9月23日にJAXAが打ち上げた太陽観測衛星「ひので」に搭載された可視光・磁場望遠鏡は、太陽の活動領域の光度の分布やその時間変化の精密な測定を可能にし、白色光発光が多くのフレアに見られる普遍的な現象であることが明らかになってきています。
2006年12月14日の22:09(世界時)に発生したXクラス(最大規模)の太陽フレアでは、「ひので」の可視光・磁場望遠鏡によって白色光が観測されました(図1)。それと同時刻にNASAのRHESSI衛星によって硬X線が観測され、これらの画像を定量的に比較研究することが可能になりました。解析の結果、RHESSI衛星がとらえた硬X線、すなわちフレアによって高速に加速された電子(非熱的な電子)の存在場所や時間変動などのふるまいが、「ひので」衛星がとらえた白色光のそれと極めて良く一致していました(図2)。また、40キロ電子ボルト(光の速度の約40%)以上に加速された電子すべてが持つエネルギーが、白色光の発光に必要なエネルギーに匹敵していました。この発見は、太陽フレアによって高速に加速された電子が白色光の起源であることを示しています。
太陽フレアで加速される電子は上空のコロナで生成されますが、その電子が太陽面近くの密度の濃い太陽大気に降り注ぐことで、硬X線などを放射します(図3)。しかし白色光は太陽の表面である光球から主に発光されると考えられており、また40キロ電子ボルト程度の電子は光球から約1,000km上空(彩層)までしか侵入できません。ここに放射高度の矛盾があります。この矛盾の説明としては、電子照射により一時的に非常に密度の濃い層が光球より上空に作られ硬X線とともに白色光が発光する可能性や、可視光・磁場望遠鏡が明確にとらえた針状をした彩層の微細構造の間をぬって加速電子が光球まで降り注ぐ可能性などのアイデアがあります。今回の解析結果により、40キロ電子ボルト程度の電子が白色光発光において重要な役割をしていることが判明したことで、太陽大気中における加速粒子のエネルギー輸送のモデル化ができると期待されます。
「太陽フレア中において粒子がどのように加速されるのか」は、太陽フレア研究でほとんど理解されていない謎の一つですが、太陽大気中の加速粒子のエネルギー輸送のモデル化はさらに粒子加速の情報を得るために重要な課題です。また、加速された高エネルギー粒子が大量に地球まで到達すると、地球磁場の擾乱や地上における宇宙線量の増加などを引き起こし、私たち人間の生活にまで影響を及ぼすことがあります。2010年に入って太陽活動は徐々に活発になりつつあり、今後「ひので」衛星が太陽フレアの観測をする機会が増え新たな知見が得られると、大きな期待が寄せられています。
2006年12月14日22:07 2006年12月14日22:09
(世界時、フレア前) (世界時、フレア中)
図1:太陽観測衛星「ひので」の可視光・磁場望遠鏡がとらえた太陽黒点。フレア中の画像(右側)では、フレア前の画像(左側)で見られなかった白色光が見られる。
図2:太陽観測衛星「ひので」の可視光・磁場望遠鏡がとらえた2006年12月14日22:09(世界時)の白色光フレア(左図)とその増光の光度分布(右図)。(地球:NASA's Earth Observatory)
右図では、フレア中の22:09観測の画像から、その前後の22:07と22:17の光度の平均を差し引くことで、増光成分だけを示した。赤い等高線はRHESSIがとらえた硬X線(40-100キロ電子ボルトの高エネルギー電子)の分布。
図3:上空のコロナで生成された加速粒子(電子)が太陽面近くの密度の濃い太陽大気に降り注ぐことで、硬X線などを放射する。白色光の発光もこの電子の降り注ぎによっている。
発表論文:
論文名:G-band and Hard X-ray Emissions of the 2006 December 14 Flare Observed by Hinode/SOT and RHESSI
論文著者:
渡邉恭子(宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所 宇宙航空プロジェクト研究員) Sam Krucker、Hugh Hudson(カリフォルニア大学バークレー校 宇宙科学研究所)、 清水敏文(JAXA 宇宙科学研究所)、増田智(名古屋大学)、一本潔(京都大学)
論文掲載:
The Astrophysical Journal, No.715, pp. 651-655, 2010.
リンク:
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 ひので (SOLAR-B)
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hinode/index.shtml
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