研究成果

観測史上最強の太陽磁場

自然科学研究機構 国立天文台

宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所

概要

 岡本丈典・国立天文台フェローと桜井隆・国立天文台名誉教授は、太陽観測衛星「ひので」の可視光望遠鏡による観測データから、太陽観測史上最大となる6,250ガウスの磁場強度を持つ黒点を発見しました。これは一般的な黒点磁場の2倍の強さであり、さらには強磁場を示す領域が黒点内の暗くない部分(暗部以外)に位置するという特異な性質を持っています。これまでにも暗部以外で局所的に強い磁場が観測されることは時々ありましたが、その成因については全くの謎でした。今回、「ひので」の5日間に渡る安定した連続観測により黒点の発展過程が詳細に捉えられ、その結果、この強磁場は黒点暗部から伸びるガスの流れが別の暗部を強く圧縮することで生じていると結論付けました。この成果は、高い解像能力で長時間安定して磁場測定を行うことのできる「ひので」でなければ成し得ないものです。今後、黒点形成・進化メカニズムや、それに伴うフレアなどの活動現象を理解する上で新たな視点をもたらすと期待されます。

背景

 黒点は太陽を代表する構造の1つです。1610年にガリレオ・ガリレイが発見して以降、科学的な観測が続けられています。そして 1908年、ジョージ・ヘイルが黒点には強い磁場が存在することを明らかにしてからは、100年以上に渡って磁場の観測も合わせて行われてきました。磁場の持つエネルギーは太陽表面や太陽大気コロナにおける様々な活動の源であり、特に黒点周辺ではフレアやプラズマ噴出などの激しい現象がしばしば引き起こされ、地球環境にも影響を与えることが知られています。
 「ひので」が撮影した画像【図1】を見てみると、黒点は中央の暗い部分(暗部)とそれを取り巻くやや明るい部分(半暗部)から成っていることがわかります。通常、黒点の一番暗い部分、つまり暗部の中心が最も大きな磁場強度を示し、その典型的な強さは 3,000ガウスです(注1, 注2)。そして、中心部から離れるにつれて磁場強度は小さくなり、半暗部では 2,000ガウスを下回ります。暗部と半暗部では磁場の姿勢にも違いがあり、暗部の磁場は太陽面に垂直に立っている一方、半暗部では倒れて太陽面に沿った形状をしています。また、その半暗部には暗部から外側に向かう水平流が見られます(注3)。

fig1_sunspot.png

【図1】典型的な黒点。(©国立天文台/JAXA)

疑問

 しかしながら、上に挙げた性質から外れた、暗部よりも強い磁場領域を含む黒点の存在が知られています。特にそれは複雑な形状の黒点における、極性(注4)の異なる暗部に挟まれた明るい構造上で見られます。また、この磁場は大きな強度を持つにもかかわらず太陽面に沿ってほぼ水平という奇妙な性質も持っています。そのような磁場はどのように作られるのか、またそれがなぜ暗部以外の場所に形成されるのかはわかりませんでした。

内容

 岡本丈典・国立天文台フェローらは「ひので」可視光望遠鏡による2014年2月4日の偏光分光データから、黒点暗部内に存在する明るい構造上で暗部よりもはるかに強い磁場を持つ構造を発見しました。磁場強度は分光スペクトルデータにおける鉄の吸収線の分離の幅に比例しますが(ゼーマン分離)、【図2】のように暗部よりも幅が広い、つまり強い磁場が顕著に見てとれます。その磁場強度は 6,250ガウスで、これほど明解に大きな磁場強度を示す分光データは世界初であり、観測史上最大です(注5)。そして、過去の観測例に漏れず、この強磁場もまた異なる極性の暗部に挟まれた明るい構造上にあり、かつ磁場の向きは太陽面に沿ったものであることがわかりました。水平成分は6,190ガウスで、これほど強い水平磁場も報告例がありません。

fig2_spectrum.png

【図2】(左)最強磁場を持つ黒点。(中)左図の白線における分光スペクトル。1 の場所が最強磁場強度を示す位置。目盛りは磁場強度の目安。(右)中央図の右側にある鉄の吸収線(6302.5 Å)の形状を単純化したもの。ゼーマン分離した吸収線の間隔(赤矢印)が広ければ磁場強度が大きいことを意味する。この図では、暗部は 3,500ガウス程度であるのに対し、明るい構造上の最大値は 6,000ガウスを越えている。(©国立天文台/JAXA)

 さらに、5日間に渡る「ひので」の観測データがこの強磁場形成に関する重要な情報をもたらしました。まず、強磁場領域は明るい構造と暗部の境界付近に位置し続けていたこと、そしてその構造全域に渡って磁場の向きに沿った水平流が存在し、その流れの先は常に強磁場領域に向いていたことです【図3】。これらのことから、強磁場領域を含む明るい構造は、一方(S極)の暗部に属する半暗部と見なすことができます。そして、この水平流が他方(N極)の暗部境界を強く圧縮し、暗部の最大値でも 4,000ガウス程度しかない黒点の磁場を 6,000ガウス以上に強めていたと考えられます【図4】。

fig3_closeup.png

【図3】強磁場領域を含む明るい構造の拡大図。左の3パネルは同じ場所での連続光、磁場強度、ガスの流れを表す。暗部の境界に白線、または黒線を引いている。磁場強度の図は、背景の色が太陽面に垂直な磁場成分を表し、それが極性を示す。中央の2パネルの黒棒は太陽面に沿った水平磁場成分の向きと強度を表す。注目点は、(1)明るい構造は極性の異なる暗部に挟まれていること、(2)その構造上の水平磁場が全て右上に向かっていること、(3)その構造上では水平磁場に沿った水平流が卓越していること(青色)、(4)そして、その先の暗部と交わる場所でガスが太陽に沈み込んでいること(赤色)、である。右の図は、緑線(水平磁場に沿って引いた線)上での磁場の傾きとガスの流れの関係を示したもの。水平に流れてきたガスが、暗部境界で太陽内部に向かって進んでいる(白矢印)。その場所で磁場は傾きが大きく変化しており、同時に大きな磁場強度を示している。(©国立天文台/JAXA)

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【図4】強磁場を作るメカニズムの模式図。右側(S極)からの水平流が左側(N極)の磁場を圧縮することで、磁場が強められる。地球における地殻の沈み込みをイメージするとわかりやすい。(©国立天文台)

 今回の「ひので」による観測の特徴は、大気揺らぎや夜などに左右される地上観測とは異なり、観測対象を高い解像能力で数日間に渡って連続的に追跡できたことです。これにより、強磁場領域の分布と時間発展、及びそれを取り巻く環境の変化の詳細を捉えることができました。そして、これまで謎とされてきた、暗部より強い磁場領域形成のメカニズムに初めて一貫した説明を与えるに至りました。強磁場の起源やその振る舞いは、フレアや黒点形成、ガスの噴出、コロナ加熱などにも大きく関わっており、本研究の成果が今後の観測や数値シミュレーションを通じて、太陽活動現象の理解をさらに深めるものと期待されます。


(注1)ガウスは磁場強度の単位。10ガウス=1ミリテスラ。日本付近における地球磁場強度は約 0.5ガウス。
(注2)Livingston et al. (2006) によると、1917年から2004年に観測された黒点の最大強度は 6,100ガウス。今回の研究結果はこれを上回る。
(注3)エバーシェッド流とも呼ぶ。
(注4)磁場の方向が太陽面に鉛直な暗部は、必ず N極または S極いずれかの極性を持つ。
(注5)van Noort et al. (2013) では、7,500ガウスの磁場強度を持つ黒点が報告されている。ただし、その分光スペクトルの観測データではゼーマン分離は見られず、1つの大きな吸収線が存在するだけである。彼らの研究では、画像復元手法(deconvolution)によって個々の観測データ点における本来のスペクトルを、観測データ点周囲からの光の漏れ込みを除外し復元することで、報告の強度を導出している。しかし、全く信号が見られない偏光分光データから顕著に強いスペクトルを導き出しており、解析手法の信頼性に疑問を挟む余地がある。以上を踏まえ、複雑な手法を用いず、確固たる証拠を持つ磁場導出値としては観測史上最大であるというのが本研究の成果である。

【論文】
題目:Super-strong Magnetic Field in Sunspots
著者:岡本丈典、桜井隆(国立天文台)
掲載誌:The Astrophysical Journal Letters, 852, L16 (2018)

【謝辞】
本研究は、
JSPS 科研費 JP16K17663・若手研究B・岡本丈典
JSPS 科研費 JP25220703・基盤研究S・常田佐久
の助成を受けたものです。

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