研究成果

「ひので」:恒常的に発生する彩層ジェット現象を発見

宇宙航空研究開発機構
自然科学研究機構 国立天文台


 太陽黒点にときどき発生する「ライトブリッジ」と呼ばれる領域において、1日以上も続いてジェットが噴出していることを、「ひので」可視光・磁場望遠鏡(SOT)を用いて宇宙航空研究開発機構(JAXA)の清水敏文(しみずとしふみ)准教授らが発見し、アストロフィジカル・ジャーナル・レター誌5月1日号に発表しました。

 黒点は、太陽内部から浮き上がってきた磁力線の束が太陽表面に現れたところで、強い磁場のために対流による内部からの熱の輸送が妨げられ、周辺に比べて温度が低く、暗いと考えられています。太陽黒点の暗い部分(暗部)には「ライトブリッジ」と呼ばれる明るい割れ目がたびたび現われ、そこから黒点が粉々になっていくことがあります。これは黒点の磁束が分裂・崩壊する過程を理解する上で注目される構造です。太陽観測衛星「ひので」は、このライトブリッジの活動性を詳細に観測することに成功しました。 動画は、Ca II H吸収線をフィルタで1分ごとに撮像取得したものです。Ca II H線は太陽表面上空の彩層大気の振る舞いを観測するのに適しています。秒速30-200kmに達するジェット状のガス噴出が間欠的に絶えず発生しています。興味深いことは、約1日半近くもの長時間にわたりジェットがライトブリッジに沿って発生していることです。

      

動画:黒点「ライトブリッジ」にて絶えず発生する彩層ジェット。撮影:「ひので」可視光・磁場望遠鏡(SOT)。 (JAXA/NAOJ)

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図1.太陽黒点と「ライトブリッジ」 大小の四角は、動画および磁場・電流マップ(図2)の視野を示す。(JAXA/NAOJ)
 太陽にはフレアなどの爆発現象が見られ、向きの異なる磁力線がつなぎ替わることで爆発的なエネルギーが得られると考えられています(つなぎ替えは「磁気リコネクション」と呼ばれます)。このような爆発現象は数分から数10分程度の短時間だけ持続し、その後は終息するものと考えられてきました。ところが今回発見された現象は、このような爆発が長時間にわたって間欠的に持続することがあることを示しています。なぜ1日以上もの長時間にわたって磁力線のつなぎ替えが起き続けるのでしょうか。

 太陽観測衛星「ひので」に搭載された可視光磁場望遠鏡(SOT)は偏光観測の優れた能力を持ち、偏光データの解析から、太陽表面の磁場の強さや向き、さらには、電流分布を高解像度かつ精度良く知ることができるようになりました(図2)。その結果、ジェット噴出が恒常的に発生している時、非常に強い電流(図2の電流マップの赤いすじ)が「ライトブリッジ」に沿って存在していることが判明しました。電流の存在は、らせん状に強くねじれた磁力管が、太陽面下からライトブリッジ部分に浮上し、垂直に立った強い黒点磁場の下に横たわっていることを示唆しています(図3)。

 らせん状に強くねじれた磁力線とまっすぐな磁力線との間では、磁力線のつなぎ替えが起きても、つなぎ替えの原因となる反対向きの磁力線はその周辺に残ります。これがジェットを長時間維持するしくみだと考えられます。

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図2. ジェット噴出が恒常的に発生している時に測定された磁場と電流マップ(JAXA/NAOJ)

 これを裏付けるように、多数のジェットが発射される場所(図2の白線上)が反対向きの磁力線成分が存在するらせん状磁力管の左側に集中し、双方向へのガス流(上向きの彩層ジェットと光球下降流の同時発生)の観測証拠も得られました。

 この新しい観測は、「らせん状」にねじれた磁場が太陽面下から浮かび上がってくることが、太陽大気でのダイナミックな爆発現象の発生を理解する上で重要であることを明確に示しています。また精密な磁場計測が、「磁気リコネクション」のすぐ近傍にて、はじめて可能となったと考えられ、天体プラズマにおける「磁気リコネクション」の振舞い・役割を理解する上で、今後の「ライトブリッジ」での活動性の研究が重要な観測的情報を与えてくれるものと期待されます。

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図3. 黒点磁場とらせん状磁場の間で発生する彩層ジェットの概念図 (JAXA)


発表論文:

T. Shimizu 1), Y. Katsukawa 2), M. Kubo 3), B.W. Lites 3), K. Ichimoto 4), Y. Suematsu 2), S. Tsuneta 2), S. Nagata 4), R.A. Shine 5) and T.D. Tarbell 5) "Hinode observation of the magnetic fields in a sunspot light bridge accompanied by long-lasting chromospheric plasma ejections," The Astrophysical Journal, Vol. 696, L66-L69, 2009
1) 宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部
2) 自然科学研究機構 国立天文台
3) High Altitude Observatory, National Center for Atmospheric Research
4) 京都大学 花山飛騨天文台
5) Lockheed Martin Solar and Astrophysical Laboratory


リンク:

宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部 ひので (SOLAR-B)
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hinode/index.shtml

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