研究成果

X線望遠鏡(XRT)の初期画像

 「ひので」衛星に搭載されている3望遠鏡は、 異なる波長を観測することにより、 約 6000度の太陽表面(光球)から、 数百万度以上の外層大気(コロナ)までの領域を高空間・ 高時間分解能で観測し、 高温コロナの成因や太陽フレア爆発などの活動現象の原因を 解明することを目的としています。 そのなかでもX線望遠鏡(XRT)は、 百万度以上の温度をもつコロナからの放射されるX線を観測し、 太陽コロナの全体像や太陽フレアなど活動現象を観測することを 目的としています。 X線という非常に短い波長の光を観測するために、 斜入射型という特殊で高性能な反射鏡を使い、 検出器にはX線に高感度をもつCCDを利用しています。 この結果、 1秒角(太陽面上で約730kmに対応:太陽半径は約960秒角)に迫る分解能を実現し、 最短2秒に1枚の割合での画像が取得可能になりました。

 日本の前太陽観測衛星「ようこう」に搭載された軟X線望遠鏡(SXT)は、 太陽研究に革命を起こした名機ですが、その後継機のXRTは、SXTに比べ 空間分解能が約2倍以上向上しています。 それだけではなく、SXTは200万度以上のプラズマしか観測できなかったの対し、 XRTは反射鏡・解析フィルター・CCDカメラの性能向上により、 100万度程度のコロナ下層のプラズマまで観測できるようになりました。 これにより、極端紫外線撮像分光装置(EIS) の観測温度域の上端をカバーすることになり、 彩層・遷移層・コロナと 温度が急激に変化する太陽大気の構造をXRTとEISで漏れなくカバー することが可能となりました。

 下図が、XRTが10月28日に撮像した太陽コロナの画像です。 現在は太陽活動の極小期にあたり、この日の可視光画像を見る限り 黒点は見られませんでした。 そのため、XRTではこの日、X線強度の弱い構造を観測対象に設定し、 長めの露出時間で観測を行いました。

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 露出時間を長めに取ったため、 東西のリム(画像左右の端)にあった活動領域の明るいコロナの構造が つぶれてしまっていますが、短時間露出で撮像した画像では、、 活動領域の非常に細かいループ構造が見えることが確認されています。 今回の画像は、XRTの高空間分解能・高感度を知って頂くため、 非常に小さく、そして暗い構造に注目した画像になっています。
 下の図は、その小さい構造を拡大した画像です。

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 図の左下方に、 太陽の北半球にあるX線の輝点を拡大した画像があります。 これは、X線輝点(X-ray Bright Point:XBP)と呼ばれる構造で、 その名の通り、いままでの観測では点にしか見えなかった構造です。 このXBPは、黒点があるような大きな活動領域のミニチュア版 と思われており、画像にあるようにXBPが太陽全面を埋め尽くしているため、 太陽表面の磁場構造に大きな影響を及ぼしていると考えられています。

 拡大したXRTの画像では、いままで点にしか見えなかったXBPが、 大きな活動領域と同じ磁気ループ構造でできている事が良くわかります。

 このようにXRTは、最初期の観測結果により、X線の波長域で 今までにない高空間分解能をもつ望遠鏡であることがわかりました。 今後は、XRTに搭載されている10枚のX線解析フィルターすべてを利用した、 試験観測を行いつつ、望遠鏡の更なる調整を行っていきます。 調整が終了した後には、 他の2つの望遠鏡と協調しながら定常観測を行っていく予定です。

 なお、X線望遠鏡の望遠鏡部は、Smithsonian Astrophysical Observatory, NASA, JAXA宇宙科学研究本部、国立天文台により開発され、一方、CCDカメラ部は、 国立天文台、JAXA宇宙科学研究本部、明星電気株式会社、株式会社アストロリサーチ、 三菱重工業株式会社、株式会社セック、e2v technologies (uk) ltd. の協力により開発されました。 また、「ひので」の運用は、観測装置開発に参加した日・米・英の研究機関に加え、 欧州宇宙機構(ESA)の国際協力により行われています。

注)画像をクリックすると、このページに掲載されたXRTによる太陽X線画像の 高解像度版PDFファイルが取得できます。

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