開発状況

高度環境試験棟 大型クリーンルーム


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(図1) クリーンルーム
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(図2) ヘリオスタット
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(図3) クリーンルーム光学ガラス窓

 国立天文台高度環境試験棟のクリーンルーム(192m2)では、2006年夏に打ち上げの太陽観測科学衛星SOLAR-B搭載の可視光望遠鏡の組立と試験がたけなわである。

 可視光望遠鏡は口径50cmの反射望遠鏡で、NASAで製作中の焦点面撮像装置と組み合わせて0.2-0.3秒角の高分解能で太陽の磁場を観測する。衛星に搭載する望遠鏡では、わずかのゴミや有機物の付着が、重大な障害を引き起こすことがある。クリーンルームのクリーン度は、設計値でクラス10万(0.5μ粒子)であったが、いくつかの工夫と徹底した清掃により、実験中もおおむねクラス100(1立方フィートあたり0.5μ以上のホコリの数が100個)程度と、驚異的なクリーン度を維持している。実際、ご本尊の望遠鏡は、クリーンルーム中においた「クリーンブース」の中に鎮座しており(図1)、ここのホコリの数はだいたい1以下、多くても10以下である。ちなみに、通常の実験室のホコリの数は100万程度である。

 可視光望遠鏡の試験計画のうちクリーンルームで実現できそうもなかったのが、「本物の太陽光による性能評価試験」である。50cm反射望遠鏡の口径をカバーする太陽光が導入できれば、反射望遠鏡や焦点面撮像装置の性能を、強烈な本物の太陽光で軌道と似た条件で評価することが可能になる。この目的を達成するため、高度環境試験棟の計画段階から、「クリーンルームへ太陽光を導入する」という世界でも例のない要求をし、図2のようなヘリオスタットが1月に高度環境試験棟屋上に完成した。ヘリオスタットは、口径80cmの平面鏡で太陽を追尾し反射光を第2平面鏡へ送り、建物天井の60cm光学ガラス窓を通して(図3)、クリーン度を全く悪化させずに太陽光をクリーンルーム内へ導入できる。室内に入ってくる太陽の光が1本の光路になって見えることは、よく経験する。これは、室内に浮遊する塵が散乱して見えるためである。クリーンルーム内では、太陽光が全く見えない。試験中に考えこんでしまったが、浮遊する塵が全くないため「見えない」のである。

 クリーンルームは、クリーンブースの他、望遠鏡の光学性能を測定する干渉計などの計測装置、振動を遮断する独立基礎と大型定盤、宇宙と同じ状態を作り出して望遠鏡の性能が確認できるスペース光学チャンバーなど、宇宙望遠鏡の試験がほとんど行える設備が整っている(図1)。なお、ヘリオスタットは、クリーンルームへ太陽のみならず、星の光を入れることができ、衛星搭載の星トラッカーや太陽姿勢センサーなどの試験に供することが可能である。この例のない特徴を持ったクリーンルームが、SOLAR-B衛星が打ち上げられた後も、様々なプロジェクトに有効利用されることを願っている。
 クリーンルームおよびヘリオスタット完成に至るまで、台長・企画調整主幹をはじめ、管理部各位の深い御理解、御協力を戴き、改めて感謝いたします。
                             (Solar-B推進室 野口本和)

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