開発状況

Solar-B可視光望遠鏡のコンタミネーション評価

 人工衛星に搭載された望遠鏡では、宇宙空間で光学機器が汚染されてしまうとそれを取り除くことはほぼ不可能であり、汚染を定量的に予測しその対策を施す(汚染源を取り除くなど)ことが極めて重要です。固体表面から放出されるアウトガスとは、材料そのものの蒸気または物質表面に付着している不純物のガスのことであり、放出されたガスが固体表面に入射すると、気体分子はすぐに反射されるかまたは表面に吸着します。入射面がエネルギーの低い低温面であれば吸着した分子は長時間面上に留まることになります。このような分子の吸着による汚染のことを分子コンタミネーションと呼んでいます。アウトガスが光学面に吸着した場合、物質によっては光学面の反射率が減少します。Solar-Bのような太陽望遠鏡の場合、熱吸収係数が増加し、光学素子の熱変形により結像性能が劣化してしまいます。さらに吸着した汚染物質は、紫外線照射によって光化学反応を起こすことが知られており、太陽光に含まれる強力な紫外線によって黒色化する、汚染物質の吸着量が増加するという問題があります。したがってSolar-Bのような太陽を観測する衛星ではアウトガス問題は極めて重要になります。
 分子コンタミネーションを防ぐためには、機器の設計段階及び部品選定の段階で使用部品からのアウトガスによる汚染が極力少なくなるようにする必要があり、以下のような設計が要求されます。(1) 配置及び温度:光学面に直接対向する部分にアウトガス源になる可能性のある物(接着部品、ケーブルなど)を配置しない。また、光学面は周囲の構造物と比較して温度が高くなるように設計する。(2)材料選定:複合材料、接着材、金属のコーティング材料などはアウトガスの少ない材料を使用する。したがって、使用する材料のアウトガスを測定して問題とならないことを地上試験で確認しておく必要があります。
 Solar-Bでは、複合材料、接着剤その他汚染源になる可能性のあるものは全てアウトガス評価を行っています。評価の目的は、(1)使用材料のベーキングや金属部品の脱脂洗浄の効果、接着材によるアウトガスの量を調べてコンタミネーションを減らすこと、(2)各材料のアウトガスレートを測定し、コンタミネーションに敏感な面への堆積量を推定して軌道上での汚染を定量的に予測することにあります。
 評価は、国立天文台の小、中型真空槽を使用し、真空槽中に温度制御した測定試料と水晶振動子センサー(TQCM:Thermoelectric Quartz Crystal Microbalance)を配置して、試料から放出されたアウトガスがTQCMに吸着する量を測定します。

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 このアウトガス測定は、NASA MSFC規定(MSFC-SPEC-1238)を基にTQCMを使用して評価するものです。Solar-B 可視光望遠鏡の構造材として使用する複合材料、接着剤のアウトガスをTQCMで測定した結果、ベーキングによってアウトガスが大幅に減少し、NASA MSFC基準を満たすことがわかりました。この結果から実際の望遠鏡でも徹底的なベーキングの必要性が確認されました。また、ベーキングを行わない部位で使用する接着剤の測定では多量のアウトガスが放出されることがわかりました。接着剤は使用量が少なく、露出する面積も小さいですが十分な注意が必要となります。
 金属部品の脱脂洗浄方法の種類によるアウトガス量の差もこの測定で確認されました。したがって、金属コンポーネントのアウトガスについても十分な注意が必要です。
 TQCMによる評価だけではまだ十分ではなく、吸着したアウトガスが光学面に与える影響を評価する必要があります。それは、Witness mirrorを使用した評価法です。この評価はWitness mirrorをTQCMと同一環境に暴露し、ミラーのライマンα線反射率の劣化を調べるという方法です。今後Witness mirrorの評価も行っていく予定です。

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