三鷹太陽観測施設がとらえた、 大規模フレアを起こした黒点とその周辺の磁場構造の発達過程
自然科学研究機構 国立天文台
2017年9月6日から11日(いずれも日本時間)にかけて計4回、太陽で大規模フレア(爆発現象)が発生しました。フレアは、黒点を取り巻く活動領域に蓄えられた磁場のエネルギーが解放され、熱エネルギーとガスの運動エネルギーに変わる現象です。国立天文台三鷹キャンパスにある太陽観測施設でも、今回の大規模フレアを起こした黒点とその周辺の磁場構造がフレアの発生に至るまでどのように変化していったのか、その過程をとらえることができました。その画像・動画を公開します。
三鷹太陽観測施設による観測データ
三鷹の「黒点望遠鏡」では、大規模フレアを起こした黒点が8月29日に太陽の東(向かって左)側の縁に現れ、太陽の自転によって西(向かって右)へ移動していき、西縁に消えていくまでの様子をとらえました(動画1)。赤道の少し南にあるのが当該の黒点です。この黒点は9月3日に急激に成長し、複雑な形状の黒点になったことが分かります。
この黒点は7月に現れて以後消長を繰り返していましたが、9月になって急激に発達しました。三鷹の地上望遠鏡群は、長期の継続観測によって、このような長寿命黒点の進化の様子もとらえています。
●画像ファイル
sr20170829-0909.zip(3.3MB) (各画像のクレジットは「国立天文台」)
ファイル名「srYYYYMMDD.jpg」の「YYYYMMDD」が年月日を表しています。
また、三鷹の「太陽フレア望遠鏡」でとらえたこの黒点の磁場の様子が、図1と図2です。磁場観測には2時間程度の時間がかかり、途中で太陽に雲がかかるときれいな観測データが得られないため、天候がよくなかった9月3日~8日は、良いデータはとれませんでした。フレア発生前の9月2日にはまだ黒点の磁場は強くありませんが、9日には磁場強度が増加し、暗部にN極とS極が入り混じった複雑な磁場構造になっています。
図1 「太陽フレア望遠鏡」がとらえた2017年9月2日(左)と9日(右)の光球の磁場分布画像(鉄の吸収線による観測):白がN極、黒がS極。丸で囲ったのが、大規模フレアを起こした黒点の部分です。(©国立天文台)
図2 「太陽フレア望遠鏡」がとらえた2017年9月2日(左)と9日(右)の彩層(太陽表面の少し上の大気の層)の磁場分布画像(ヘリウムの吸収線による観測):白がN極、黒がS極。丸で囲ったのが、大規模フレアを起こした黒点の部分です。(©国立天文台)
「太陽フレア望遠鏡」ではこのような複雑な磁場が起こすエネルギー解放にともなう様々な現象もとらえており、そのひとつとして9月11日の太陽の西縁で起こった大規模フレアの後に「ポストフレアループ」が観測されています(図3)。
【解説】太陽表面磁場とフレア
磁場は、太陽の内部でつくられます。太陽表面下の磁束管(磁力線の束)が浮上し、太陽表面を突き抜けたときの断面が黒点です(図4)。太陽面下でねじられた磁束管が浮上したり、あるいは、磁束管が浮上してから黒点の回転運動によって磁場がねじ曲げられたり、複数の磁束管が接近して現れたりして太陽表面に複雑な磁場構造ができると、上空のコロナ磁場にエネルギーが蓄えられた状態になると考えられています。
フレアが起こる現場であるコロナの磁場は、表面磁場よりもはるかに弱く、直接測定は困難です。近年では、太陽表面の精密な磁場構造の測定からコロナ磁場を正確に推定して、コロナにどれだけの磁気エネルギーが蓄積されているかを求めることができるようになっており、太陽表面磁場は、フレア発生メカニズムの解明に重要なデータです。
精度のよいフレア予測を目指して
9月6日の大規模フレア発生後、情報通信研究機構などから、地球への影響に対する注意が喚起されました。幸いなことに、今回は大きな被害は起こりませんでした。しかし、太陽フレアは、地球のまわりの人工衛星や宇宙飛行士に影響を与えたり、地上での通信障害や停電などの被害を引き起こしたりする場合があります。どのような磁場構造がフレアを起こすきっかけとなるのかを解明できれば、磁場構造の変化を監視することにより、フレアの発生を事前に精度よく予測できるようになるものと期待されます。
天候に左右される地上観測(三鷹)では、9月6日の大規模フレア発生前後の磁場分布画像がとれませんでしたが、太陽観測衛星「ひので」がその詳細な観測に成功しています。今後、太陽フレア望遠鏡と「ひので」のデータを相補的に用いて詳細な解析を行うことにより、フレア発生メカニズム解明の研究が進展すると期待されます。
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