「ひので」極端紫外線撮像分光装置がとらえた大規模フレア
自然科学研究機構 国立天文台
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所
2017年9月6日から11日(いずれも日本時間、以下同じ)にかけて計4回、太陽で大規模フレア(爆発現象)が発生しました。「ひので」極端紫外線撮像分光装置(EIS)は、9月6日と11日の大規模フレアの撮像観測および分光観測に成功しました。そのデータを公開します。
9月6日には18時頃と21時頃の2回、太陽面中央付近で大規模フレアが発生しました。動画1は、1回目の大規模フレア発生のおよそ2時間前から、2回目の大規模フレア発生の2時間後までの間に極端紫外線撮像分光装置により撮られた極端紫外線輝線の単色画像をつなげたものです。
大規模フレアを起こした活動領域はその後、太陽の自転により西(向かって右)側へ移動し、9月11日には西縁に到達し、大規模フレアを起こしました。動画2は9月11日に太陽の西縁で起こった大規模フレアの様子です。
太陽フレアは、磁気リコネクション(磁気再結合、図1)を通して、磁場のエネルギーが解放され、熱エネルギーとプラズマ(高温のため、イオンと電子に分かれた状態のガス)の運動エネルギーに変わる現象です。磁気リコネクションは、反平行の磁力線が接近し、磁力線がつなぎ替わる現象(http://hinode.nao.ac.jp/news/topics/x-2/参照)ですが、突発的に数分以下の短い時間でつなぎ替えが起きるのか、など詳細な物理過程についてはまだ分かっていない部分が多く、我々はその解明に挑んでいます。「ひので」極端紫外線撮像分光装置は、プラズマの温度や動きを詳細に調べることができるので、磁気リコネクションの詳細な過程に迫るのに有効で、今回の大規模フレアでも貴重なデータを得ています。
9月6日の太陽面中央付近で起こった大規模フレアの観測データ
動画1は、左上から右下まで温度の低い方から順番に並べてあります。2回の大規模フレア以外にも活動領域のあちらこちらで、様々な温度での増光が見られ、多様な規模のエネルギー解放が頻繁に発生していることがわかります。
また、9月6日2回目の大規模フレア発生時の、極端紫外線撮像分光装置が取得したスペクトルを図2に示します。各輝線のドップラー効果より、温度が300万度より低いプラズマは彩層の方に押し付けられ、400万度以上のプラズマが高速(300 - 400km/s)でコロナ中に上昇している様子がわかります。これは、1回目の大規模フレアの結果、コロナの高温プラズマの密度が上昇していたため、今回のエネルギー解放はコロナの比較的高い位置で起こったためではないかと考えられます。
9月11日の太陽西縁で起こった大規模フレアの観測データ
9月11日の太陽の西縁で起こった大規模フレアでは、磁気リコネクションにより、閉じた磁場に閉じ込められたプラズマのかたまりが放出された様子が、「ひので」X線望遠鏡で観測されました(http://hinode.nao.ac.jp/news/topics/x-2/)。極端紫外線撮像観測装置による動画2から、閉じた磁場に閉じ込められたプラズマのかたまりが放出された後、フレアループが成長していく様子がわかります。高温なプラズマほど、ループの背が高く、顕著にループの頂上に尖ったカスプ構造が見られるようになります。
また、X線望遠鏡による画像からは、このプラズマのかたまりは真西の方向におよそ400 km/s の速度で飛び出していったように見えます。極端紫外線撮像分光装置による分光観測では、図3の黒丸の位置の視線方向速度を求めると、プラズマのかたまりの明るい先端部分はおよそ400 km/sで地球の方向に飛び出していることや、逆に底部は80 km/sで地球と反対側に動いていることがわかりました。
磁気リコネクションの詳細な過程の解明に向けて
磁気リコネクションは、宇宙の様々なところで起こっているプラズマの素過程です。しかし、銀河など、遠くの宇宙で起こっている磁気リコネクションは詳細な過程を観測することができません。我々は、太陽フレアにおける磁気リコネクション現象の全体を観測することで、磁気リコネクションの詳細に迫ろうとしています。今回の大規模フレアで得られたX線望遠鏡と極端紫外線撮像分光装置によるデータを、今後解析することにより、磁気リコネクションに関する理解が進展することが期待されます。
【解説】極端紫外線撮像分光装置で磁気リコネクションに迫る
「ひので」極端紫外線撮像分光装置(EIS)が観測する「極端紫外線」とは、紫外線の中でも波長が短い紫外線のことで、太陽の遷移層~コロナから放出されます。図4に示すように、遷移層は温度が1万度から100万度まで急激に変化する領域です。コロナの温度は100万度以上です。
原子は温度が高くなると電子がはぎとられていきます。温度が高くなるほど、はぎとられる電子の数が多くなります。同じ元素でも、持っている電子の数が違うと、違う波長の輝線(※1)が発光します。つまり、温度が異なると違う波長の輝線が発光するので、遷移層~コロナが出す様々な輝線で撮像することで、様々な温度の大気の様子を見ることができます。動画1、2の元素記号の後のローマ数字は電離度(どれだけの電子がはぎとられているか)を表しています(I:中性原子、II:1階電離イオン、III:2階電離イオン...)。
(※1)輝線:原子やイオンの種類ごとに決まった波長の光を放出するために分光スペクトル上に現れるピークのこと。EISは、輝線の波長形状を分光観測により記録しており、光のドップラー効果によって波長シフトする輝線の波長を計測することで、その光を出しているプラズマが観測者に近づいているか、遠ざかっているか―すなわち、視線方向の速度を調べることができます。
このように、極端紫外線撮像分光装置で温度ごとの大気の様子を調べたり、プラズマの視線方向速度を調べたりすることで、磁気リコネクションの詳細な過程に迫ることができます。
なお、「ひので」衛星のフレア観測やデータ解析は、文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究 「太陽地球圏環境予測(PSTEP)」(平成27-31年度)と連携して実施されており、太陽フレアの発現機構の理解および宇宙天気の予測研究に貢献をしています。
当ページの画像、映像のご利用については、こちらをご覧ください。当ページの画像、映像でクレジットが明記されていないもののクレジットは『国立天文台/JAXA』です。当ページ内の、クレジットが『国立天文台/JAXA』、『国立天文台/JAXA/MSU』および『国立天文台、JAXA、NASA/MSFC』である著作物については、国立天文台が単独で著作権を有する著作物の利用条件と同様とします。著作物のご利用にあたっては、クレジットの記載をお願いいたします。なお、報道機関、出版物におけるご利用の場合には、ご利用になった旨を事後でも結構ですのでご連絡いただけますと幸いです。ご連絡はsolar_helpdesk(at)ml.nao.ac.jp((at)は@に置き換えてください)にお願いいたします。