開発経緯

本日の ひので 2006.9.30〜

2006年10月6日(金) @宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<ひので状態報告>
 昨日に引き続き、衛星状態のモニター、データレコーダーの定期的再生などを行っ た。衛星の状態は、正常。

2006年10月6日(金) (打ち上げから14日目)
@宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<ひので衛星運用拠点の移動>
 衛星打ち上げから今まで、「ひので」衛星の運用は、ロケット発射 場である、JAXA/ 内之浦宇宙観測所で行われてきました。正確には、内之浦宇宙空 間観測所の34mアンテナ基部の衛星管制室(写真参照 34m_yajirusi.jpg [写真提供JAXA])で行われてきました。著者も、打ち上げからこの管制 室で、最初の1週目は21時から翌日9時まで、今週は朝4時から9時 まで衛星の運用を行ってきました。この原稿も衛星管制室にて、運用の 合間に書いていました。
 前にも書きましたが、衛星の運用は時間との戦いです。運用の前には、 世界中に散らばっているJAXAのアンテナの空き状況を見て「ひので」衛 星の運用に使用するために予約を入れ、衛星と交信する為にアンテナを 向ける角度を計算してアンテナ担当者に送り、運用で衛星に送るコマン ド(命令)を準備し、運用時に衛星の状態を見るためにチェックする項 目を前もって確認しておく等々の準備を行います。マニューバのような クリティカルな運用の場合は、コンピュータの中で構築された衛星シミ ュレーターで、命令を送った後どのようなことが起こるかシミュレーシ ョンをすることもあります。運用が始まると各担当者は、写真(34m.jpg) のように管制室に集まり、運用を行います。この作業を、打ち上げ後2 週間続けてきました。
 衛星も予定の軌道に投入され、安定してきましたので、運用の拠点を 内之浦宇宙観測所から相模原のJAXA/ 宇宙科学研究本部移す作業が始まっています。写真に写っている PCの一部や、姿勢制御のシミュレーションに使用していた、衛星搭載機 器のプロトタイプが箱詰めされて相模原へ輸送され、各機器の担当者も 徐々に帰京していきます。また、望遠鏡の立ち上げ作業のコマンド準備 は、一足早く帰京したSOLAR-B推進室の面々も参加して、相模原の衛星 運用室にて行っています。著者も7日の早朝の運用を最後に、帰京しま す。
 相模原に運用拠点が移ってからは、高空間分解能を発揮するための姿勢 制御モードの試験、各望遠鏡の掃除(温度を上げてコンタミ物質を宇宙空 間へ飛ばす)、望遠鏡の立ち上げなどの作業が続きます。まだまだ、ファ ーストライト(望遠鏡で初めて太陽を撮る事)まで大変な作業が続きます。 これからも、本ページで「ひので」衛星の情報を発信したり、今までのよ うに解説コラムを掲載していきますので、引き続き本ページを見て「ひの で」衛星が一人前の太陽観測衛星に育っていく様子を見てください。
 衛星が安定した現在、個人的には、お昼に寝る習慣がついてしまった体 が、問題なく普通の生活に戻れるかどうかが一番心配です。
下条圭美(国立天文台)
PS:
10月14日(土)に内之浦宇宙空間観測所の一般公開が行われます。 「ひので」を打ち上げたM-Vロケットのランチャーなどが公開されます。 詳しくは、内之浦宇宙空間観測所 一般公開ホームページをご覧ください

2006年10月5日(木) @宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<ひので状態報告>

 軌道マヌーバーが終了したため、衛星状態のモニター、データレコーダーの定期的再 生などを行った。衛星の状態は、正常。

2006年10月4日(水) @宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<ひので状態報告>
 可視光望遠鏡(SOT)画像安定化装置(CTM)の電源が打上げ後初めて投入され、搭載 コンピューターの正常動作を確認しました。このコンピュターは焦点面観測装置(F PP)内の画像相関トラッカーからの姿勢残差信号を受けて、可動鏡を制御する役割 を担っており、SOTの回折限界撮像に必須の装置です、これにより、可視光望遠鏡の 観測に必要な3台のコンピュター(MDP、FPP、CTM)の正常動作が確認されました。 CTMは、SOTの望遠鏡部分(OTA)の温度制御のためのヒーター制御も行っています。 主鏡のデコンタミネーションヒーター、副鏡のデコンタミネーションヒーターの正常 動作が確認されました。これらは、望遠鏡のサイドドア(排熱ドア)明け後、主鏡、 副鏡の温度を上げ、汚染物質の除去を行うためのものです。また、同時に観測時に使 用するオペレーション用ヒーター系:副鏡の温度を適正に保つヒーター主系・従系、 コリメーターレンズ(CLU)の温度を適正に保つヒーター主系・従系の動作が確認さ れました。これにより、サイドドア明けの準備が完了しました。

2006年10月4日(水) (打ち上げから12日目)
@宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<軌道制御が終了: 2>
(昨日からの続きです)
 「ひので」衛星は、24時間切れ目無く太陽観測を行いたいために、 図(JAXA/ISAS提供) のように昼と夜との境を通る軌道に入れる必要があります。絵でみる と、北極と南極を通る軌道、言い換えれば軌道傾斜角が90度付近の 軌道に入れれば良い様に見えます。しかし、単に90度付近の軌道に 入れてしまうと、地球の公転のために昼夜の境が1日に約1度ずれて いくので、数日で夜のある軌道になってしまいます。この1日約1度 のずれを自然に直してくれる便利な軌道が、太陽同期軌道と呼ばれる 特別な軌道です。この軌道に投入できれば、1年に9ヶ月は夜側を通 らない軌道になり、夜側を通るようになっても最長20分しか夜側を とおらない、太陽観測にとって最適な観測環境になります。しかし、 この特別な軌道は、衛星の高度に対し軌道傾斜角が決まっており、衛 星を正確に太陽同期軌道の軌道傾斜角にしないと、すぐ太陽同期から ずれていってしまいます。
 このように軌道傾斜角の制限の厳しさから、1回で軌道傾斜角の変 更がうまくできるかわからなかったので、抑えとして2回目の軌道傾 斜角変更マニューバも考えられていました。しかし、「ひので」衛星 は一発で希望通りの軌道傾斜角へ移動し、太陽同期軌道に投入されま した。軌道変更の計画担当者は、「ひので衛星のスラスターは再現性 がよく(何度も同じように動いてくれるという意味)、姿勢制御もビ シッと希望通りの姿勢に向いてくれるので、太陽同期軌道への投入は スムーズにできた。」と言っていました。
下条圭美(国立天文台)

2006年10月3日(火) (打ち上げから11日目)
@宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<軌道制御が終了 :1>
 JAXAプレスリリース 「ひので」の軌道投入と今後の予定について
 上記のプレスリリースが出されたように、「ひので」衛星の軌道を 太陽観測に最適な軌道である太陽同期軌道に変更する作業が終了しま した。先日の「今日のひので」に掲載した <テストマニューバ>(9月26日の記事) と <ぺリジアップマニューバ>(9月28・ 29日の記事) を含めて、計4回のマニューバを実施しました。1回目はテ ストマニューバを行い、「ひので」衛星のスラスターおよび地上系の バックアップ体制を含めた姿勢系の評価を行いました。2回目は、本 番マニューバ1回目であるぺリジアップマニューバを行い、近地点の 高度を280kmから500kmに上げました。3回目は、2回目と 同じぺリジアップマニューバを行い、近地点の高度を500kmから 680kmへと、ほぼ遠地点と同じ高度に上げました。この結果、「 ひので」衛星の軌道は、真ん丸である円軌道になりました。その次は、 3日に行われた4回目の軌道変更マニューバです。4回目の軌道変更 マニューバは、ぺリジアップではなく、軌道傾斜角というパラメータ を変更するために行ったマニューバでした。
 軌道傾斜角とは、地球の赤道面と衛星の軌道面がなす角のことを言 い、もし軌道傾斜角が0度であったら、衛星は赤道上空を赤道に沿っ て回ることになります。一方、軌道傾斜角が90度の衛星は、子午線 (経度線)に沿って回り、毎回北極と南極の上空を通過するような軌 道を取ることになります。
(ながくなったので、明日に続きます。) つづき
下条圭美(国立天文台)

2006年10月2日(月) @宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<ひので状態報告>
 MDP(ミッションデータプロセッサー)は、3望遠鏡の制御と観測データー処理・ 圧縮を行う中枢機器です。MDPの電源投入を打ち上げ後初めて行い、 搭載コンピューターの正常動作を確認しました。 また、SOT(可視光望遠鏡)のFPP(焦点面観測装置) の主電源投入を打ち上げ後初めて行い、 搭載コンピューターの正常動作を確認しました。 さらに、FPPの3台のCCDカメラのデコンタミネーションヒーター (汚染物質除去ヒーター)の電源を投入し、 CCDの温度をー60度から+30度まで上昇させています。 温度変化が急すぎてCCDにストレスがかからないように、 1分あたり2度C以下のレートで、 ゆっくり慎重にCCDの温度を上昇させています。 これにより、打ち上げ後のガスの多い時期に冷たいCCDに汚染物質が 付着したとしても、綺麗に除去できるはずです。 観測開始前のお掃除(その1)でした。

2006年10月1日(日) @宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<ひので状態報告>
 衛星を90度回転しての軌道高度上昇を予定通り実施し、高度約680kmの略円軌 道に予定通り投入された。これにより、高度上昇マヌーバーは無事終了した。 衛星 は正常である。

2006年10月1日(日) (打ち上げから9日目)
@宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<モーメンタムホイール>
 軌道を変えるためにスラスターという小さなロケットを利用するこ とは、9月26日の記事にて紹介しましたが、ぺリジアップマニュー バ前には、姿勢を保つためにも利用していました。軌道が低い場合は、 「ひので」衛星は空気の抵抗を受けて飛んでいますので、姿勢を制御 し、衛星を太陽方向に向かせておくためには、ある程度強い力を出せ るスラスターが必要不可欠でした。しかし、スラスターによる姿勢制 御は、推進剤が尽きてしまえば使えませんし、「ひので」衛星に搭載 されている高分解能の望遠鏡の性能が発揮できるほど、姿勢を安定化 させることができません。
 スラスターに変わって、恒常的に姿勢制御を行うために使用するの が、モーメンタムホイールと呼ばれる装置です。この装置の中には、 はずみ車が入っていて、電気モーターを使ってはずみ車を回していま す。
 コマの様な回転する物体は、回転軸の方向を一定に保とうとする力 を発生させます。みなさんもコマを回したときに、なかなか倒れない ことは知っていますよね。実際にこの力を体験するための実験方法が 以下のページに詳しく書かれています。
 京都市青少年科学センター/ [理科トピックス]→[科学実験・工作]
自転車の車輪でジャイロの実験

 この実験ページでは、人が回転いすに座ってはずみ車を傾けること で自分自身を動かしています。この実験と同じ原理で衛星を動かすの がモーメンタムホイールの役割です。回転いす上の人間のように、は ずみ車の軸を動かすことができるモーメンタムホイールもありますが、 「ひので」衛星では、軸が固定されているモーメンタムホイールを4 つ搭載して、4つのはずみ車の回転数を別々に変えることで、同じ力 を発生させています。
 「ひので」衛星は、ぺリジアップマニューバ後に、スラスターを使 った姿勢制御からモーメンタムホイールを使った姿勢制御に変更しま した。この姿勢制御方法を変更する運用前に、姿勢制御を担当するメ ーカーの人に聞くと、このスラスターからモーメンタムホイールに姿 勢制御の方法を変えるときが一番緊張するとのこと。なぜかとたずね たら、「モーメンタムホイールが立ち上がって、姿勢制御ができるよ うになってこそ、一人前の衛星になりますから」という答えでした。 いま、「ひので」衛星は、モーメンタムホイールにて、安定した姿勢 制御をおこなっており、また一歩、一人前の太陽観測衛星に近づいた ようです。
 
下条圭美(国立天文台)

2006年9月30日(土) @宇宙研内之浦宇宙空間観測所

<ひので状態報告>
 慣性センサーのドリフトレート推定および設定を行い、 衛星の姿勢安定度を向上させた。加速度計による計測を行い、 モーメンタムホイール4台動作時の擾乱レベルの計測を行った。 これは、今後の可視光望遠鏡の回折限界性能評価のため、 重要な参考データとなる。 この他、スタートラッカーやスラスターに関するチューニングなどが行われた。 データレコーダーは、内之浦上空で定期的に再生されている。 これにより、衛星のハウスキーピングデータを連続的に取得し、 非可視中の衛星動作の確認が行われている。衛星の各部は正常である。

9月23日よりこのコーナーに、随時「ひので」関係者の言葉を掲載します。この部 分は、国立天文台および宇宙航空研究開発機構の見解を表すものではありません。

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