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研究成果

ひので/XRTで見る、太陽の自転・コロナの発達 −ひので衛星X線望遠鏡(XRT)による太陽コロナの長期間観測−

自然科学研究機構 国立天文台
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部
米国航空宇宙局(NASA)
英国科学技術会議(STFC)
欧州宇宙機関(ESA)

公開ムービー

XRT太陽全面画像ムービー(2007年1月〜4月)

◦擬似カラー高解像度版 

◦白黒高解像度版

◦擬似カラー低解像度版

◦白黒低解像度版

XRTによる静穏領域の動画(2007年3月16日0時〜8時UT)

カラー版

公開ムービー解説

 可視光(人間の目で見ることができる光)による太陽像は、 下図左のようにのっぺりとして、唯一はっきり見える構造は、 右半球に見える黒点のみです。この絵からは静かで穏やかな太陽が見て取れます。 同じ日の太陽をX線(下図右)で見てみてみると、太陽の表情は一変します。

sunspots_512_20070302.jpg

SOHO(ESA&NASA)

xrt_fig1ol.jpg

国立天文台/JAXA

 X線では、さまざまな縞模様がいたるところにあらわれており、 一部は渦を巻いているような模様も見て取れます。 この違いは、可視光やX線が出てくる太陽大気の温度や高さの違いに原因があります。 太陽の大気は、面白いことに、高度が高くなる毎に温度が上がってきており 参照ページ)、 可視光は太陽表面に近い6000度程度の大気(光球)から、 X線は太陽表面から高度3000km以上の100万度の大気(コロナ) から放射されます。物質が高温に加熱されると、 プラズマと呼ばれる電気を通す気体へと変化します。 このプラズマは、磁場があると、 磁場の形を示す磁力線に沿ってしか運動できないという、 面白い性質をもっています。 この性質により、X線でみる太陽像は、太陽大気中の磁場の形を意味しており、 磁場がさまざまな形を取ることにより、複雑な模様が現れています。

xrt_fig1k.png

 太陽コロナは、その明るさや形により分類され、名前がつけられています。 右図の中で最も明るい構造(青い点線で囲まれている領域)は、 「活動領域」とよばれています。この構造は、 太陽大気でも特に磁場が強い場所に現れ、 黒点の上空に現れる場合が多いです。右図の例も黒点がある活動領域の例で、 上図左の黒点の位置は、右図の活動領域の中心付近(赤い丸)に対応します。 活動領域は、その名の通り、いろいろな現象が活発に起こる領域であり、 フレアと呼ばれる太陽大気での爆発現象も、この活動領域で発生します。 フレアは、地球で磁気嵐やオーロラを起こす原因の一つですので、 太陽研究で重要な項目の一つです。 一方、右図の中でX線が弱い場所(緑の破線で囲まれている場所)があります。 我々は、この場所を「コロナホール」と呼んでいます。 コロナホールは、主に太陽の北極や南極で多く見られますが、 右図のように太陽の赤道付近にも現れることがあります。コロナホールは、 太陽から吹き出るプラズマ流である太陽風でも特に高速 (秒速300km以上)の太陽風の吹き出し口であると考えられています。 この高速太陽風が地球に向かってくると、磁気嵐を起こす場合があり、 コロナホールの研究も地球への影響を考える上で重要なテーマです。 このほか、X線画像で、太陽全体を覆うぼやっと明るい場所を「静穏領域」 と読んでいます。静穏領域やコロナホールの中には、 点のような構造が無数に見えると思います。

  これらのコロナの構造は、ずっと静かに存在しているわけではありません。 常にダイナミックに変化しています。 このムービーは、 2007年1月から4月末に、 ひので衛星に搭載されたX線望遠鏡(XRT)で撮像された、 太陽のX線画像をつなげたものです。1日に2〜3枚の画像をつなげていますが、 数日の間太陽全面の観測がない時期もありますので、時間が飛んでいる部分もあります。 このムービーをみると、 静かな構造など太陽コロナ中にはどこにもないように思えます。 また、コロナの構造が、太陽の自転によって、 左から右へ移動していく様子がはっきり見えます。

 太陽X線画像では、ひときわ明るい活動領域はよく目立ちますが、 活動領域は常にあるわけではないこともわかると思います。活動領域は、 なにも特徴的な構造が無いところから突然現れ、日々拡大し、 長いものでも3ヶ月程度形を保った後に、徐々に消えていきます。

xrt_fig2 2.gif

実は、このムービーにも、活動領域が現れ急激に成長した様子が捉えられています。 右図は、ムービーの3月10日6時(世界時) から11日6時まで1日分の画像の一部を切り出したものです。 3月10日6時28分の画像(図の最上段)の水色の破線で囲まれた部分には、 特徴的な構造は何も見当たりません。 しかし、その5時間後(2段目)には、輝点や複雑な構造が現れ始め、 さらにその7時間には、明るい構造が現れたのがわかります。 図の最下部の左側にある青い丸は地球の大きさを示しているので、 わずか数時間で地球の数倍の構造が現れたことがわかります。 このとき、太陽表面では磁場のN極とS極が現れており、 コロナではそのN極とS極をつなぐ磁力線が見えていることになります。 よく右図をみると、 明るい構造が、磁石の周りに砂鉄を撒いたときに現れるループの 様な模様と同じ模様が現れていることがわかります。 このように、 活動領域のような太陽内部から強い磁場が現れるとその領域がX線で明るくなることは、 今までの研究でよくわかっています。これは、 数百万度のプラズマが数時間で大量に作られたことを意味しています。 しかし、磁場が強い場所では、なぜ高温のプラズマが作られるのかはわかっていません。 ひので衛星の目的の一つは、 この高温プラズマがどのように作られるかを明らかにすることです。 現在、大量に取得されたデータを吟味し、この謎を解明するための研究が進行中です。

xrt_fig3 2.gif

ムービーで、もう一つ目立つ点としては、あらゆるところに存在している 「X線輝点」と呼ばれる小さな点です。 左の図は、 静穏領域をクローズアップした画像であり、緑の破線は、 この画像のなかのX線輝点の代表例を示したものです。 また、図の左上の青い丸は、地球の大きさを示しています。 これをみると、"点"とはいっても、 実は地球と同じ程度の大きさを持っていることがわかります。 ひので衛星より前のX線望遠鏡では、この"点"は、空間分解能がよくなかったため、 本当に"点"に見えていましたが、ひので/XRTの高空間分解能は、 この"点"は"点"ではなく、 活動領域と同じような、ループのような構造でできていることを明らかにしました。 さらに、静穏領域を拡大したムービーを見てみると、 この輝点が、時間と共に明るくなったり、 暗くなって消えてしまったりしていることがわかります。 輝点は、静穏領域やコロナホールなど活動的な現象が少ないところに出てくると思われていましたが、XRTの観測により、 この輝点自体が激しい活動を起こしていることが明らかにされつつあります。 よって、我々が今まで使ってきた「静穏領域」という言葉の意味が、 ひので/XRTにより変更されるかもしれません。

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