SOLAR-C が取り組む科学課題
光球から太陽圏に至る大局的な現象を支配しているのは、磁気リコネクションや波動現象であり、それらにともなって衝撃波、乱流といった小さなスケールの物理現象が現れると考えられています。これらを観測するためには、
- 微細構造をとらえる高空間解像度
- 速い時間変化をとらえる高感度
このため SOLAR-C 衛星は、「ひので」衛星に比べて大きく高感度な光学磁場診断望遠鏡、紫外線高感度分光望遠鏡、X 線撮像分光望遠鏡の3 台の観測装置を搭載し、連携して観測を行ないます。
ここでは、SOLAR-C 計画が取り組む多くの課題のうち幾つかを取り上げて解説します。
科学課題1:太陽磁場の3次元構造を求める
光球からコロナまでの3次元的な磁気構造を求める、これ自身が極めて重要なSOLAR-Cのサイエンス課題です。磁気構造の根元となる光球では、磁場の最小の大きさ(100km 以下程度と考えられている)の磁気要素を分解すると共に、彩層の磁場を世界で初めて直接観測します。彩層上部の磁場観測から、境界値問題としてコロナの磁場を求めることも可能となります。
3次元的な磁気構造が求められると、磁気リコネクションや磁気流体波による彩層・コロナの加熱機構や太陽風の加速機構をはじめ、太陽フレアのトリガー機構などの解明が進むと期待されます。
また、「ひので」が発見した、光球面いたるところに現れる小スケール・短寿命の磁場が、光球−彩層−コロナの大局的な3 次元磁気構造の形成と進化にどのような影響を与えているかを解明するのもSOLAR-Cの課題です。
科学課題2:波動により彩層・コロナ・太陽風が理解できるか?
光球の対流運動によって磁束管が揺らされたり捻られたりすることで、絶え間なく磁気流体波が発生していることが「ひので」によって分かってきました。
この波動は、彩層や遷移層で反射したり屈折したりしつつ上空まで伝わり、コロナの加熱と太陽風の加速を行っているのではないかという仮説が注目を浴びています。
SOLAR-C 衛星に搭載される光学磁場診断望遠鏡と紫外線高感度分光望遠鏡の連携により、彩層磁場の小さな揺らぎを観測することで波動の同定を初めて行います。
光球・彩層からの波動の性質を明らかにし、それによりコロナの加熱・太陽風の加速が起きているかどうかを解明することは、SOLAR-C 衛星の主要なサイエンス目的の一つです。
科学課題3:
磁気リコネクション現象の解明とコロナ・彩層加熱への寄与
フレアや彩層・コロナのジェット現象など、幅広い空間・時間スケールで発生する爆発的な活動現象には磁気リコネクションが深く関与していることが、「ようこう」や「ひので」で分かってきました。コロナ加熱の候補である磁気流体波や微小フレアもリコネクションによって発生すると考えられています。
これらの現象の解明には、衝撃波の役割などリコネクション自身の理解が不可欠ですが、リコネクション現場周辺の温度・速度・磁場の観測情報は決定的に不足しています。
SOLAR-Cに搭載される紫外線高感度分光望遠鏡とX 線撮像分光望遠鏡は、広い波長域で高解像度の分光撮像観測を実現し、リコネクションにともなうプラズマ流・磁気流体波・衝撃波などを、様々な温度の大気層で切れ目無く調べることを初めて可能とします。さらに、彩層上部領域の磁場観測から、リコネクションによる磁気構造の変化を直接的に観測することが期待されます。