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開発経緯

望遠鏡をきれいに!  − 洗浄のお話 − 先端技術センター 技術員 田村友範

 横浜のとある小さな町工場に、できたばかりのSOLAR-B(ひので)のフライト部品が、次々と持ち込まれている。こんなことが、実際に望遠鏡の組立期間中に行われていました。
いったい、何のために・・・?

 答えは、部品をきれいに洗浄するためです。しかし、なぜ東京都三鷹市にある国立天文台から近くもない横浜の町工場まで、わざわざ部品を持って行って洗浄しなければならなかったのか。今回は、そんな話を書いてみたいと思います。

 望遠鏡に使う金属部品は加工後に全て洗浄されます。何も望遠鏡の部品でなくても、加工によって機械油の付いた物を洗わない人はいないと思います。しかし、ただ洗っただけでは、望遠鏡に組み込むことはできません。その部品が洗浄によって本当にきれいになったのかどうか確かめる必要があるのです。どうやって確かめるのか。それは、真空中でアウトガスを測定して評価をします。アウトガス測定とガスを測定するためのセンサーであるTQCMについては、本HPの「写真で見るコンタミネーションとの戦い」に詳しく書いてあります。そちらでも説明されていますが、軌道上では望遠鏡の部品から出るアウトガスが、望遠鏡の鏡を汚してしまうのです。したがって、アウトガス測定でガスが検出されないことが、SOLAR-Bプロジェクトにおいてはきれいになったということになります。

 我々は、もちろん洗浄技術に関してなど、まったく知識を持ち合わせていませんでした。 ということで、SOLAR-B推進室の鹿野、常田、田村の3名がSOLAR-Bの部品メーカーから紹介された会社にとりあえず向かったのです。そしてその会社がある横浜に到着して、車から降りた我々の目の前に現れた小さな機械工場が、これから幾度となく訪れることになるであろうエスティ技研だったのです。
 エスティ技研の方々に会社のことや洗浄のお話を聞いた後、実際にサンプルを洗浄してもらって、それを持ち帰って評価することになりました。話を聞く限りは、ごくごく一般的な洗浄液(準水系洗浄剤)を使って、超音波洗浄を行っているということでした。持って行ったサンプルは、厚さ1cmのアルミニウムの板にネジ穴を5個開けたものでした。同じようにして、サンプルの洗浄をSOLAR-Bに関わるメーカー自身、もしくはメーカーから紹介された会社に依頼していきました。ほとんどの会社の洗浄法は超音波洗浄ですが、洗浄液は、準水系洗浄剤、炭化水素系溶剤、中性洗浄剤、非イオン界面活性剤など様々で、合計5社7種類の洗浄を評価することになりました。

 実は我々は、どこの洗浄だってたいして変わらず、きれいになるのではないか、と少々高をくくっているところがありました。しかし、いよいよ順番にサンプルのアウトガス測定による評価を始めていくと、実に意外な結果が明らかになっていきました。

 図の1と2は、アウトガスの測定結果なのですが、

image003 2.png image001 2.png
図1.エスティ技研    図2.A社

 図中の実線は、真空槽にサンプルを何も入れていない時のアウトガスの測定値で、点線がサンプルを入れた時の測定です。実線と点線の周波数の差がセンサーに付着したアウトガスの量を示しています。この結果は、図1のエスティ技研のサンプルはアウトガスがほとんど検出されず、図2では多くのアウトガスが検出されたことを示しています。他の会社の洗浄もほとんど図2のようにアウトガスが検出されました。

 7種類の洗浄方法を評価した結果、他の大きな会社を差し置いて、エスティ技研による洗浄が一番きれいになるという結果が出たのです。理由はよくわかりませんが・・・。失礼ながら、何とも意外な結果が出たと言ってしまいます(申し訳ありません)。
 とにかく、この結果を受けて、望遠鏡の部品をきれいに洗浄できる会社を見つけるという我々の目的は達成されました。早速、可視光望遠鏡(SOT)とX線望遠鏡(XRT)の部品の洗浄をエスティ技研に依頼することにして、またエスティ技研にも仕事を快く引き受けていただきました。

 さて、実際に部品の洗浄が始まります。洗浄が始まると、やっぱり横浜まで部品を持って洗浄しに行くのは、大変な時間と労力が必要になります。部品ができ上がる度に、週に何度も三鷹と横浜を往復しなければなりません。この大変な作業は、主に中桐さん、宮下さん、熊谷さん、沢さん達が担当しました。本当にご苦労様でした。実際の洗浄作業の苦労話は、どうぞ本HPの中桐さんのコラムをご覧ください。

 しかし、ベーキングもそうですが、望遠鏡をきれいに保つために、洗浄もここまでやるわけですから、やはり、SOLAR-Bは心底、恐ろしいプロジェクトであったと思わずにはいられません。
(以上)
>> エスティ技研における洗浄」へつづく
参考ページ
写真で見るコンタミネーションとの戦い

当ページの画像、映像のご利用については、こちらをご覧ください。当ページの画像、映像でクレジットが明記されていないもののクレジットは『国立天文台/JAXA』です。当ページ内の、クレジットが『国立天文台/JAXA』、『国立天文台/JAXA/MSU』および『国立天文台、JAXA、NASA/MSFC』である著作物については、国立天文台が単独で著作権を有する著作物の利用条件と同様とします。著作物のご利用にあたっては、クレジットの記載をお願いいたします。なお、報道機関、出版物におけるご利用の場合には、ご利用になった旨を事後でも結構ですのでご連絡いただけますと幸いです。ご連絡はsolar_helpdesk(at)ml.nao.ac.jp((at)は@に置き換えてください)にお願いいたします。

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