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    謎の超音速現象の発見
    ー太陽観測ロケット実験CLASPによる5分間の観測成果ー

研究成果

太陽のあちらこちらに現れる
謎の超音速現象の発見
ー太陽観測ロケット実験CLASPによる5分間の観測成果ー

自然科学研究機構 国立天文台
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所
アメリカ航空宇宙局 マーシャル宇宙飛行センター
仏天体物理宇宙研究所
カナリー諸島天文研究所


(2016年11月29日 追記)

本研究の成果は米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」832巻141番2016年12月1日号に掲載となります。


[発表概要]

太陽観測ロケットCLASP(Chromospheric Lyman-Alpha SpectroPolarimeter)は、2015年9月3日に打ち上げられ、太陽彩層の詳細な観測を5分間にわたって行ないました。そのうち、太陽の2次元画像から、国立天文台久保雅仁助教を中心としたグループは、わずかに明るい構造が毎秒150km~350kmという超音速で伝播するという現象を発見しました。5分間という短い観測時間にもかかわらず、太陽のいたるところで、同じような現象がたくさん見つかりました。大気の影響のない状況で、既存装置の数倍の時間分解能(単位時間あたりに撮像する回数)と感度で観測することにより、これまでの観測装置では捉えられなかった、わずかな明るさの変動が伝わっていく様子を詳細に捉えることに成功しました。本研究の成果は米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」832巻141番2016年12月1日号に掲載されます。

[研究の内容]
 CLASPの主な目的は、ライマンα線(121.567nm)の偏光を観測することで、太陽表面とコロナをつなぐ彩層・遷移層の磁場を計測することにあります。これは世界初の試みで、CLASPは彩層・遷移層の磁場を計測するための新しい観測手法と技術の検証・確立を目指しています。地球大気によるライマンα線の吸収を避けるために、NASAの観測ロケットにCLASPを載せてアメリカ・ホワイトサンズの実験場から宇宙空間に打ち上げました。CLASPが宇宙空間から大気圏内に落ちてくる約5分の間に太陽の縁付近(図1)を観測しました。CLASPのメインの装置は、偏光分光観測装置ですが、本研究成果はそれを補助するための撮像装置を用いて得られた発見です。この撮像装置は、国立天文台を中心に、JAXA宇宙科学研究所や米国NASAと共同開発したものです。

Fig1_JP.png

図1 (左)CLASPに搭載された撮像装置で取得したライマンα線画像。画像中央に存在する黒い縦線はスリット。(右)NASAのSolar Dynamic Observatoryで取得された30.4nm波長帯の太陽全面画像。水色の四角がCLASPの観測領域を示し、水色の矢印がCLASP画像のXY軸を示します。(クレジット:[左]国立天文台、JAXA、NASA/MSFC;[右]NASA/SDO)


 偏光分光観測装置では、スリット(図1(左)の中央に存在する黒い縦線)に沿った空間情報しか得ることができません。したがって、ロケット飛翔中の観測ターゲットを選択するために、リアルタイムで太陽の2次元画像を高速で提供することが、撮像装置の最も重要な役割でした。CLASPの撮像装置は、空間解像度は既存の衛星観測装置と比べて高いわけではないですが、0.6秒に一枚の彩層画像を取得するという高い時間分解能を持ちます。また、微弱な光の変動でも検出できる高い感度も特徴です。それらの特徴を生かして、まだ見ぬ高速・高頻度現象の発見に挑戦しました。
 動画1(左)を見ると、5分間の観測時間でほとんど彩層が変化していない様に、一見思えます。しかし、ゆっくりと変化する成分を元の画像から差し引き、30秒以下の変化を強調すると、常に変動し続けている太陽の姿が浮かび上がってきます(動画1(右))。

動画1 (左)図1(左)の動画。(右)30秒以下の時間スケールの明るさの変動を強調した動画。左右の動画の観測領域は全く一緒です。(クレジット:国立天文台、JAXA、NASA/MSFC) 

 さらに、一本の明るい筋構造に着目すると、明るさの変動が繰り返し筋構造に沿って移動していくことが分かります(動画2・図2の水色矢印)。明るさの変動が伝わる速度は毎秒300km程度で、少なくとも同じ領域で4回同じ現象が起きています。このような、明るさの変動が繰り返し高速で伝播する現象は、わずか5分間の観測期間で、非常に明瞭な物だけでも20か所で起きています(図3の緑四角)。比較的強い磁場が集中している領域だけでなく、その外の領域でも観測されており、太陽彩層ではいつでもどこでも起きている現象であることが分かりました。明るさの変動が伝わる速度は、毎秒150 km~350 km程度で、太陽彩層の音速(~毎秒20 km)と比べ10倍近く速いです。また、磁場が集中する領域から明るさの変動が伝わる傾向にあることもわかりました。

動画2 (左)図1(左)の緑色の四角の領域を拡大した動画。(右)同じ領域で30秒以下の時間スケールの明るさの変動を強調したもの。水色の矢印が、この領域で4回発生している高速伝播現象を示しています。(クレジット:国立天文台、JAXA、NASA/MSFC)

Fig2.png

図2 動画2で示した高速伝播現象(1回目)が起きている領域の拡大図。水色の矢印は動画2と同じ位置にあります。(クレジット:国立天文台、JAXA、NASA/MSFC)

Fig3.png

図3 緑色の四角で囲まれた領域(20か所)で、繰り返し高速伝播現象が観測されています。(クレジット:国立天文台、JAXA、NASA/MSFC)

 太陽観測衛星「ひので」や先進的な地上観測装置によって、次々と超音速の現象が彩層で発見されてきました。しかし、今まで観測されている彩層の超音速現象と比べても速度が大きく、非常に短い時間で起きる現象であり、この現象が何であるかはまだ分かっていませんが、磁場に関係する波動現象ではないかと推測しています。今後、CLASPの再飛翔に向けてさらに研究を進めていく予定です。

 
 また、「ひので」衛星等と比べて圧倒的に小規模な撮像装置でも、一芸に秀でることで興味深い発見を得られたことは、観測ロケット実験や気球実験といった小型の飛翔体観測を今後推進していく上でも重要な成果だと考えています。

[論文]
題目:Discovery of Ubiquitous Fast Propagating Intensity Disturbances by the Chromospheric Lyman Alpha Spectropolarimeter (CLASP)
著者:久保雅仁、勝川行雄、末松芳法, 鹿野良平、坂東貴政、成影典之、石川遼子、原弘久、Gabriel Giono(国立天文台)、常田佐久、石川真之介、清水敏文、坂尾太郎(宇宙科学研究所)、Amy R. Winebarger, Ken Kobayashi、Jonathan W. Cirtain、Patrick R. Champey(NASAマーシャル宇宙飛行センター)、 Frederic Auchere(仏天体物理宇宙研究所)、Javier Trujillo Bueno、Andres Asensio Ramos(カナリー諸島天文研究所)、Jiri Stepan(チェコ科学アカデミー天文学研究所)、Luca Belluzzi(ロカルノ太陽研究所/キーペンホイヤー太陽物理学研究所)、Rafael Manso Sainz(マックスプランク太陽圏研究所), Bart. De Pontieu(スタンフォード-ロッキード研究所)、 一本潔(京都大学/国立天文台)、Mats Carlsson (オスロ大学)、Roberto
Casini(米国立大気研究所高高度観測所)、後藤基志(核融合科学研究所)
掲載誌:The Astrophysical Journal 832巻141番2016年12月1日号

[謝辞]
本研究は、NASA・JAXA・CNES・国立天文台の他、以下の研究費の支援によって進められた観測ロケット実験CLASPの一環で行われました。
JSPS科研費:JP23340052・基盤研究B・原弘久
JSPS科研費:JP24740134・若手研究B・成影典之
JSPS科研費:JP24340040・基盤研究B・鹿野良平
JSPS科研費:JP25220703・基盤研究S・常田佐久
NASA Low Cost Access to Space:Award Number 12-SHP 12/2-0283
Spain Ministry of Economy and Competitiveness: AYA2010-18029
Czech Science Foundation:Grant 16-16861S
The Academy of Sciences of the Czech Republic:project RVO:67985815

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