研究成果

3望遠鏡によって取得された太陽画像の公開


JAXA-NAOJ-NASA-PPARC共同プレスリリース.pdf


 「ひので」衛星には、日・米・英の国際協力で開発された 高性能な望遠鏡が3台搭載されています。 この3台の望遠鏡は、それぞれ観測する波長が異なります。

  可視光・磁場望遠鏡(SOT)は、 その名の通り、 人間の目で見える波長(光)で高空間分解能の撮像を行ない、 約6000度の太陽表面(光球)から約1000km上空の彩層と呼ばれる太陽大気 (約1万度)までの様子を観測することが出来ます。
 SOTは、衛星に搭載された太陽用可視光望遠鏡としては、 史上最大の50cmの口径をもち、 0.2〜0.3秒角(観測波長に依存する。太陽面上で150〜200kmに対応) の高空間分解能を達成しています。 地上の観測装置では、SOTより口径の大きい反射鏡を使用した太陽望遠鏡がありますが、 大気の影響をうけるため、 SOTレベルの高画質の画像は年に数回、 それもほんの瞬間しか撮ることができません。 一方、SOTは空気のない衛星軌道上から観測しますので、地 球大気の影響をうけずに高空間分解能の画像を、 24時間連続して取得することが出来ます。 このような高空間分解能による長時間の観測は、 これまでにはできなかったことです。

 さらに、SOTには世界最高峰の偏光分析装置が搭載され、 光球での磁場の大きさだけではなく、3次元的な方向まで、 0.3秒角の高空間分解能で測定することが可能です。 分解能だけで判断すると、 地上の望遠鏡でも高空間分解能の磁場測定が可能に思えます。 しかし、磁場測定には複数枚の画像の取得が必須です。 地上の観測で複数枚の高空間分解能画像を取得しても、 その画像一枚一枚の間で、大気の影響による許容できない歪みが生じてしまい、 高空間分解での3次元磁場のマップ作成は不可能でした。 SOTでは、 0.3秒角の高空間分解能での3次元磁場マップを、 スナップショットとしてだけではなく、ムービーとして作成できます。 これらの磁場マップムービーや、今回発表しなかった別波長での画像は、 次回のプレスリリースで発表する予定です。

  極端紫外線撮像分光装置(EIS)は、 地球大気のために地上に届かない極端紫外線の輝線を、 衛星軌道上で撮像することによって、 数万度から百万度程度の温度を持つ太陽大気を観測します。
 太陽大気中に存在するさまざまな元素 (例えば鉄・シリコン・ヘリウム・マグネシウム等)は、 その元素が存在する領域の温度に応じて、 特定の波長の光を放出します。 太陽の大気層である、彩層上部(温度:数万度) ・遷移層(温度:数万度〜100万度) ・コロナ下部(約100万度)に存在する元素は、 EISが観測波長(波長17nm〜30nm)としている極端紫外線を放射するため、 極端紫外線の輝線を観測することにより、 これらの温度域に対応する大気層の画像を取得することができます。 また、これらの極端紫外線の輝線スペクトルは、 その放射領域の温度だけではなく、 密度や速度の情報を持っているので、分光観測をすることにより、 その温度領域の密度・速度も計測することが可能です。
 これまで太陽観測衛星にも、 同等な観測装置は搭載されていましたが、 設計・光学素子(反射鏡・分光器)・CCDカメラの性能向上により、 以前衛星に搭載された最高の極端紫外線撮像分光装置(SOHO搭載CDS)より、 空間分解能で約3倍・波長分解能(分光性能)で3倍以上・ 感度(有効面積)で約10倍の性能向上を達成しています。

  X線望遠鏡(XRT)は、 太陽大気上層にある、 100万度以上の温度を持つコロナから放射されるX線および極端紫外線 (波長0.6nm〜20nm)を観測し、 コロナを鮮明に撮像します。 X線も地球大気のため地上には届きませんので、 X線による観測は衛星軌道上からしかできません。
 XRTは、日本の前太陽観測衛星「ようこう」に搭載され、 太陽研究に革命を起こしたといわれる軟X線望遠鏡(SXT)の後継機です。 このSXTに比べXRTは、空間分解能が約2倍以上向上し、 約1秒角(太陽表面で730kmに対応) という太陽用X線望遠鏡としては史上最高の高空間分解能を達成しています。 さらに、SXTは200万度以上のプラズマしか観測できなかったの対し、 XRTは反射鏡・解析フィルター・CCDカメラの性能向上により、 100万度程度のコロナ下層のプラズマまで観測できるようになりました。 これにより、 これまでは極端紫外線の観測でしか得られなかった100万度程度のコロナのプラズマと、 X線の観測でしかえられなかった200万度以上のプラズマの両方を、 XRTにより観測できるようになります。

 これら3台の望遠鏡を使用することにより、6000度から数千万度までの広 い温度域をもつ太陽大気を一度に観測することが可能になり、

  • 6000度の太陽表面(光球面) の上空に、なぜ数百万度という高温な大気(コ ロナ)ができるのか?
  • 太陽フレアなど、ダイナミックなコロナ活動の起源は何なのか?
  • 太陽大気内だけでなく、 他の星や銀河そして地球磁気圏で行われているプラズマと磁場の相互作用とは、 どのようなものなのか?
  • 地球に影響を及ぼす太陽フレアや高速太陽風などの予測

などの太陽物理学に課された問題を解決することが期待されています。
 2006年9月23日の衛星打ち上げ以降、 本Webサイトの 「本日のひので」ページでお伝えしている通り、 太陽同期軌道への姿勢変更、 姿勢制御機能の性能確認、 が順調に行われました。 つづいて望遠鏡の蓋開けオペレーションも順調に行われ、 初期観測が開始されました。 オペレーション当時の状況やオペレーションの内容は、 このページ最後の 「本日のひので」バックナンバーから ご覧になることができます。

 開けオペレーション以後、 ピント合わせ等の望遠鏡の微調整が行われ、 設計値どおりの性能が発揮された画像を取得することができましたので、 3望遠鏡の画像を公開します。


「本日のひので」バックナンバー:主な衛星イベント記事の抜粋

  「本日のひので」10月7〜12日

  • 可視光・磁場望遠鏡ドア開けオペレーション

   ◦可視光・磁場望遠鏡のサイドドアの展開
   ◦可視光・磁場望遠鏡のトップドアの展開

  • 極端紫外線撮像分光装置ドア開けオペレーション

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