太陽は私たちが目に見えない光も出している?
太陽の光は何色でしょうか?虹を思い出すと、太陽の光には赤色から紫色のいろいろな色の光が含まれていることが分かります。虹は、空気中の水滴によって太陽の光が分けられたものだからです。では、太陽からの光は赤色から紫色の光だけかというと、そうではありません。赤外線や紫外線も太陽からの光に含まれています。赤外線や紫外線は、私たちの目には見えません。
赤い光や紫の光、はたまた、赤外線や紫外線。これらはすべて光(電磁波)ですが、いったい何が違うのでしょうか。答えは、波長です。光は波です。波の山と山の間の長さを波長と言います。図のように、虹で見られる赤色から紫色は、波長が長いほうが赤色、波長が短いほうが紫色です。赤色よりも波長の長い光、紫色よりも波長の短い光は、私たちの目には見えません。赤色の光よりも波長が長いのが赤外線、電波、そして、紫色よりも波長が短いのが紫外線、X線、ガンマ線です。太陽からの光には、これらすべてが含まれています。
太陽の構造と光の波長(©ISAS/JAXA)
色から分かること
光を波長(色)ごとに分けることを分光といいます。波長ごとの強度を順に並べたものをスペクトルといいます。スペクトル上に「輝線」や「吸収線」が現れることがあります。「輝線」と「吸収線」のことを「スペクトル線」といいます。スペクトル線は太陽観測では非常に重要ですので、ここで説明します。
スペクトル線が現れる仕組み
輝線や吸収線は、原子やイオンが、その種類ごとに決まった波長の光を吸収したり放出したりする性質があることにより生じます。例えば、ナトリウムランプのスペクトルをとると、オレンジ色の光(波長590nm)だけが強い「輝線」が現れます。ナトリウムがこのオレンジ色の光を放出するからです。そして、同じ波長の光を吸収もします。そのため、観測者から見てランプ内のナトリウムガスの後ろに強い光源がある時に、スペクトルをとるとオレンジ色の光だけまわりよりも強度が低い「吸収線」が得られます。というのは、光源から発せられた光のうち、この波長の光だけが、ナトリウムに吸収され、ほかの波長の光は吸収されずに、もとの強さのままで観測者に届くからです。ナトリウムに吸収されたオレンジ色の光は、ナトリウムから再び放出されますが、その時ガスの温度が低いと発光強度は弱くなりますし、もとの光が入射した方向以外にも四方八方へ放出されるため、観測者に届く光の量がほかの波長の光と比べて相対的に弱くなるからです。
太陽の大気層を分解して見ることができる
太陽の場合、例えば、カルシウムイオンは主に彩層で発光していると考えられています。カルシウムイオンは396.9 nmの紫色の光を吸収したり放出したりしますので、太陽の光球をバックにしてスペクトルをとれば396.9 nmに吸収線が現れ、光球をバックにせずに太陽の縁を観測すれば396.9 nmに輝線が現れます。輝線として観測される場合でも、吸収線として観測される場合でも、このスペクトル線(波長396.9 nmの紫色の光)だけを通すフィルターを通して太陽を観測すれば、彩層を見ることができます。同様に、CH分子が出す光(波長430.8 nm、Gバンド)では、光球の上部を見ることができます。高温のコロナは、波長の短い紫外線やX線を多く出しますので、コロナを見るには、それらの波長で観測すればよいということになります。
光は波長によって大気に吸収されてしまう
それでは、コロナを観測したい場合、紫外線やX線で太陽を観測すればよいわけですが、地上からは観測できません。なぜなら、太陽から放出されている紫外線やX線は、地球の大気で吸収されてしまうからです。紫外線で日焼けするので、地上にも紫外線が届いているではないか、と思うかもしれません。確かにそのとおりですが、地上に届いているのは、大気で吸収された残りのごくわずかな、紫外線としては波長の長い近紫外線だけなのです。我々地球上の生命は、大気の吸収によって、有害な紫外線やX線から守られているのです。しかし、研究のために紫外線やX線で観測をするときには、大気の外の宇宙空間へ出て行わなくてはなりません。そこで、太陽観測衛星の登場となるわけです。
宇宙から見れば地球大気のゆらぎの影響を受けない
我々の目に見える赤から紫色の光(可視光)は、地球大気に吸収されることなく地上まで届きます。それにもかかわらず、「ひので」衛星には可視光望遠鏡が載っています。なぜ、可視光望遠鏡を宇宙に持っていく必要があるのでしょうか?図を見てみてください。地上望遠鏡ではぶれた映像になっている太陽表面の様子が、「ひので」では鮮明にとらえられていることがわかります。地上ではかげろうのように大気がゆらめくために映像がぶれてしまいますが、大気のゆらぎの影響を受けない宇宙からは、長時間にわたって解像度が安定した観測をすることができるからなのです。
「ひので」(左)と地上望遠鏡(右)による映像の比較
(©国立天文台/JAXA/SST)
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