X 線望遠鏡と格闘した 10 年
成影 典之(国立天文台 助教)
「ひのでプロジェクト」に参加したのはいつですか?そのきっかけは?
「ひので」打ち上げの年(2006年)の 4 月から参加しました。この年に学位を取得し、JAXAの SOLAR-B プロジェクト付きの宇宙航空プロジェクト研究員に赴任したのがきっかけです。
「ひのでプロジェクト」の10 年間でいち押しの成果や画像は?
X 線望遠鏡(XRT)の担当でしたので、XRT のファーストライト画像は感動的でした。実は、本当のファーストライト画像は、CCDの読み出し中にシャッターが閉まらず、光跡写真の様なイメージでした(坂尾さん記事参照)。運用室は静まり返り、この画像はナイトメア画像と呼ばれました。しかし、XRT を再起動することで、この問題は解決し、綺麗なコロナ画像が得られました。生画像では、この綺麗なファーストライト画像がいち押しですが、本当のいち押し画像は別にあります。XRT は、2 種類以上のフィルターで撮影した画像を合成することで、太陽全面の温度マップを作ることができ
ます。後述しますが、このマップを作るのに大変苦労したので、この太陽全面温度マップが一押しの画像です。
「ひのでプロジェクト」の 10年間で一番印象に残っている出来事や苦労したことは?
X 線望遠鏡(XRT)の機器較正です。XRT は地上での機器較正が十分でないまま打ち上げられていました。さらに悪い事に、軌道上で汚染物質が発生し、それらが機器に付着、機器の感度を時々刻々と変化させている、ということも判明しました。このままでは温度解析能力が失われるという危機的状況でした。そこで、地上試験のデータ(機器較正用に取得したデータはなかったので、別目的に取得したデータ)と軌道上で得られた観測データを組み合わせることで、XRTの感度を汚染物質も含めて較正する試みに取り掛かりました。僅かな手掛かりから答えを探し出す推理パズルの様な作業で、これには約5年かかりましたが、無事に成功し 2 篇(合計 82 ページ)の論文となりました。この結果はデータベースでも公開されていて、誰でも簡単に温度マップを作ることが出来ます。今となって
は良い思い出で、時々、これらの論文の引用数を確認しています。自分でもこれらを引用する科学論文を書かなくては。
「ひので」で今後取り組みたいことや期待することは?
まだ「ひので」のデータを使った科学論文を出版していないので(数本分貯め込んでいるの
で)、それらを出版させたいと思っています。また、次世代の太陽X線望遠鏡として、軟 X 線 2 次元撮像分光望遠鏡の開発を進めており、2018 年のロケット実験を目指しています。その際は「ひので」との共同観測を行いたいと思っています。
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