柴田 一成

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理論家もワクワクさせてくれる「ひので」

柴田 一成(京都大学 教授)

「ひのでプロジェクト」に参加したのはいつですか?そのきっかけは?

 「ようこう」打ち上げ直後の1991 年 末 に は、SOLAR-B の議論が始まっていました。その頃平山さんがセミナーで、SOLAR-B で可視光高空間分解能観測によりコロナ加熱、彩層加熱、スピキュールなどを解明するには何を観測すべきか、という議論をしていました。個人的にはそれがきっかけです。

「ひのでプロジェクト」の10 年間でいち押しの成果や画像は?

 個人的には彩層アネモネジェットの研究(Shibata et al. 2007)がトップですが、「ひので」科学全体としては、半暗部マイクロジェットの発見(Katsukawa et al. 2007)が最大の発見だと思います。半暗部マイクロジェットの発見を学会で最初に聞いたときは、「何とすばらしい!」と感動するとともに、「理論家としてどうして先に予言できなかったのか !?」と強いショックを受け、悔しい思いをしました。半暗部マイクロジェットは反平行ではない磁力線間の磁気リコネクションが原因である可能性が高く、これは宇宙におけるすべての磁気プラズマで普遍的に起きているプラズマ素過程と考えられるので重要です。彩層アネモネジェットを最初に見たときも、何とおもしろいのだろうと感動しました。コロナで起きている X線ジェットと同じ形のものが、低温の彩層で、しかもずっと小さいサイズで起きていたからです。一方、こんなおもしろい発見は初期観測論文を書く優先権のある装置開発チームの誰かが論文を書くだろうと思っていました。そしたら、誰も論文を書かなかったのですね。そういうわけで、優先権のない私がラッキーにも最初に論文を書くことができ、サイエンス誌に掲載されました。画像としては彩層アネモネジェットの図が一押しです。

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「ひので」がとらえた彩層アネモネジェット。

「ひのでプロジェクト」の 10年間で一番印象に残っている出来事や苦労したことは?

 スピキュールの Ca Ⅱ H 動画、特にスピキュールの横振動(アルフベン波)を最初に見たときも感動しました。しかし、この素晴らしい観測を日本人が第一著者の論文にできなかったのは残念でした。一方でまた、スピキュールにタイプ 1、タイプ 2 型があるという論文が「ひので」の成果として出版されたのには驚きました。2 種類とされるスピキュールの特徴は、古くから観測されてきたものですし、しかも、2 種類にはっきりと分類できるものではありません。スピキュールに関して学問的に十分検証されていない主張があたかも確立されたのかのように世界に広がり、教科書にまで掲載されるようになりました。これは 40 年前からスピキュールを研究し、スピキュール形成の謎を解明したいと願ってきた私には、悲しい状況でした。

「ひので」で今後取り組みたいことや期待することは?

 残り人生が少なくなってきたことを考えると、上記のスピキュール研究の状況について、いずれレビュー論文を書きたいと思っています。できれば自分で理論モデルを作り、「ひので」のデータ解析で実証できればベストですが、それは定年後の楽しみとして残しておきたいと思います。もし若い人に先を越されたらそれはそれで嬉しい話ですが。

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