プロジェクト長メッセージ

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十年偉大なり、二十年畏るべし、三十年歴史なる

渡邊 鉄哉(国立天文台ひので科学プロジェクト長)

 「ひのとり」が飛翔してから 35 年、「ようこう」25 周年、そして「ひので」打ち上げ 10 周年・・・西暦 2016 年はわが国のスペース太陽物理学にとって正に記念すべき年でありました。「ひので」は、JAXA 宇宙科学研究本部(当時[★1])の M-V(ミュー 5)型ロケットによる最後の科学衛星計画[★2]として 2006 年 9 月 23 日早朝の理想的な打ち上げにより誕生した衛星で、小杉健郎 PM [★3](当時[★1])のイニシアティブでこの愛称[★4]が決まりました。

栄光は復活の分光観測と隆盛の偏光観測の成功にあり!

 「ひので」の成果は種々の機会に様々紹介されています ので[★5]、ここではその栄光を得るに到った要因として、 偏光・分光観測の成功を挙げたいと思います。

 1973 年に飛翔した SKYLAB は、紫外線・X 線の太陽観測に大きなインパクトを与えました。極端紫外域の分光観測[★6]はオーバーラッポグラフ[★7 ]と揶揄されながらも成果を挙げましたが、その後は撮像観測[★8]の陰に隠れて、分光器の衛星搭載機会はなかなかありませんでした[★9]。軟 X 線の結晶分光も行われるようになりましたが、これらの装置ではほとんど位置の情報が得られず[★10]、ダイナミックに変化する太陽高温外層大気を高い空間分解能で、かつ線輪郭解析が行える高分散スペクトル観測が有効と理解されるまでには、「ひので」EIS [★11]の登場を待たざるを得ませんでした。

 また、口径 50㎝の望遠鏡を宇宙空間に持ち出し、その回折限界に達する空間分解能を発揮して、広い視野で長時間安定して光球磁場観測を続けている SOT [★12]は、太陽磁気活動の研究を進める上で偏光・分光観測が不可欠であることを明示し、その有効性が今日の隆盛を極める結果に繋がったものと理解しています。

研究推進体制 - 国際協力と国立天文台の役割

 近年の(大型)太陽観測衛星を開発製作し、その運用を行い、科学成果を最大限に引き出すためには、広範かつ大規模な国際協力が必須です。「ひので」についてもその構想段階から、大いに世界の研究者と検討を重ね、米国 NASA の AO [★13]発出以前から英国にも参加を呼びかけ、更に欧州 ESA も加わった世界連合が形成されることになりました。これが今日まで続く SWG [★14]の根幹をなすものになります。(図 1

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図 1 第10回ひので科学会議(2016年9月名古屋大学開催)に際し開催された SWG: SWG 憲章に記載される「充て職」メンバーの顔ぶれもだいぶ若返ってきている。(撮影:Bernhard Fleck)

 その頃 NASA は、取得観測データの「完全即時公開」の原則を打ち出していましたが、「ひので」は、衛星運用の平等化や学位取得を目指す院生の研究課題保護などに考慮を払い、NASA原則の実現性を高めた提言[★15 ]を行っています。「ひので」搭載の 3 望遠鏡はもとより、他の衛星や地上施設との共同観測を世界中の研究者が提案できる HOP [★16]制を導入し、SSC [★17]が観測スケジュールを調整して科学成果の最大化を図るユニークなシステムとして成功させたのです。

 国内研究推進体制では、それまでの宇宙研と天文台の役割分担を見直すことになりました。国立天文台の研究者は「ひので」搭載の観測機器のみならず、衛星システムとのインターフェースやデータ解析システムの開発にも深く関わることになりました。そのため、国立天文台は宇宙科学研究所(当時[★18])との間に「共同研究についての覚書」を締結し[★19]、具体的に、天文台職員の運用負担の軽減・平等性や科学運用並びにデータ解析に必要なソフトウェア等の開発・整備等、「ひので」を用いた科学研究を両機関が協力して推進するという今日の体制が謳われることになりました。「ひので」のデータを用いた研究成果の公表は、今では当たり前のように国立天文台でも行われますが、「ひのとり」「ようこう」の時代には、実はなかなか難しいことでした。また、共同研究・共同利用のための「ひので科学センター(英語名)」が天文台内に設置されたことも画期的なことでありました。 

 「ひので」の成果は偉大です。「ひのとり」「ようこう」から30 年余不足を経て、日本のスペース太陽物理学は歴史となりえたでしょうか。表題の格言は「継続」することの重要性を述べたものですが、この格言にはまだ続きがあります-「五十年神の如く」というそうです。「ひので」畏るべしとなる 2020 年代には次期太陽観測衛星が「神業」にて飛翔していることを祈念する次第です。

★1 2003 年 10 月〜 2010 年 3 月
★2 第 22 号科学衛星「SOLAR-B」計画
★3 プロジェクトマネージャ
★4 命 名 理 由 に つ い て は http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2006/0928_hinode.shtmlに詳しい
★5

例えば国立天文台ニュース 2012 年 7 月号、あるいは天文月報第 109 巻 2016 年 8 - 10 月号を参照してください

★6 ATM-S082A 実験
★7

凹面鏡回折格子1枚に X 線フィルムを用いる観測装置だったため、スペクトルと位置の情報がoverlap したことからついた別 ( 蔑 ?) 称です

★8 ATM-S054 実験に代表される
★9

も ち ろ ん SMM/UVSP や SoHO/SUMER・CDS などがあります

★10

Hinotori/SOX・Yohkoh/BCS は太陽全面(>30 分角)、SMM/BCS・FCS は > 数分角の視野を持ち、それ以下のサイズは分解することができません

★11 EIS(EUV Imaging Spectrometer)
★12

Hinode/SOT(Solar Optical Telescope) には FG(フィルターグラフ)と SP(スペクトロポラリメータ)の 2 つの焦点面観測装置(FPP)があり、いずれもフルストークス成分の偏光観測により、光球の3 次元磁場を測定することができます

★13 Announcement of Opportunity
★14 (Hinode) Science Working Group
★15

SWG 下 の Mission Operation & Data AnalysisWorking Group より NASA・JAXA に提言し了承されました

★16

Hinode Operation Program と呼ばれる「ひので」の共同観測

★17 Science Schedule Coordinator
★18

独立行政法人(現:研究開発法人)以前は文部科学省宇宙科学研究所という名称でした

★19

「ひので」打ち上げより 6 年も前の 2000 年 9 月 25日に締結されています

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