常田佐久さん(現 JAXA 宇宙科学研究所長)にインタビュー

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ひので 10 周年パーティーでの常田宇宙研所長のビデオメッセージの様子。

★「ひので」打ち上げからちょうど 10 年の 2016 年 9月 23 日、品川プリンスホテルにて、ひので 10 周年パーティーが催されました。「ひので」の開発に携わった企業の方々、および「ひので」にかかわる研究者が 120名ほど集まり、盛大な会となりました。可視光・磁場望遠鏡の責任者として、「ひので」の成功に大きく貢献してこられた常田佐久・JAXA 宇宙科学研究所長は所用のため出席できず、ビデオメッセージが上映されました。インタビューに答える形で語られた、常田所長の「ひので」10 周年にあたっての思いを、抜粋で以下に記します。


人の運、時の運に恵まれて

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「ひので」の開発にあたって、一番印象に残っていることを教えてください。

 可視光望遠鏡の開発が 10 年かかり、これが本当に作れて、軌道上で性能を発揮したということが一番大きいと思います。最初にこれを始めた時は、国際的に、日本がここまでやれるのかなと思われていたということもあります。しかし、人の運、時の運がありました。人の運というのは、良いチームメンバーに恵まれ、良い研究者とエンジニアが集まったこと、もう一つは良い企業が熱意をもって貢献したことがあります。これは巨大企業だけでなく小さな企業が本質的な貢献をしたということが大きく成功に結びついていると思います。また、時の運というのは、すばる望遠鏡の建設の後ですばる望遠鏡の工(光)学的技術を「ひので」で活用できたこと、国立天文台という伸び盛りの組織の中で良い環境があって、先端技術センターができつつあったということも大きいと思います。良い人、良い企業、良い天文台の 3 点セットがあって、「ひので」の成功に結びつきました。

 一番印象に残っていることは、これははっきりしていまして、宇宙研で打ち上げ前の最終試験をしていたとき、国立天文台の中桐正夫さんが一日中オシロスコープを見ながらチェックをして、推進
系の燃料リークを発見したことです。これによって推進系の不具合改修が行われ、「ひので」は事なきを得ました。当時の宇宙研では設備もなくて常時見張っているしかないという状況で、ヘリウムのかすかなリークを中桐さんが発見したわけで、何事も重要だと分かったら全力でやるという彼の姿勢が大ヒットに結びついたわけです。

10 年経って今、ひので衛星の働きをどのように評価されますか。

「ひので」の成果の定量的評価は、博士論文 83 名、査読論文 1028、Nature と Science の論文が 13 篇、それから国際提案観測 HOP が 324 件、「ひので」査読論文のダウンロード回数が 1年間で 5 万 3000 件ということで、数値的には大変な成果だと思います。
 しかし、いわゆる定量的評価以上の成果があったということを強調したいと思います。というのは、磁気リコネクション、波動、乱流磁場、極磁場、そのほかにもいっぱいあると思いますが、研究分野の動向に影響を与えて他の分野にまで影響を及ぼした概念を提案するミッションであったという点です。「ひので」は明らかにゲームチェンジャーとしての役割を果たしました。その価値は時間が
経っても陳腐化しないと思います。
 現在の太陽活動はゆっくり衰退していて何が起きているのかな、と世界の研究者が思っている状況です。長期のしかもすばらしい品質の観測のデータが大きい意味を持ちますので、できるだけ長く観
測を続けてもらいたいです。そういう長期観測データから新たな発見が生まれるのではないかと思っています。また、特に若い人に申し上げたいのですが、論文は年 1 篇は書くということをお願いしたいです。私自身は 3 年半前に宇宙研へ来てしまいましたが、やり残した大きなテーマがあり、暇になったら学生さんを捕まえて取り組みたいと思います。これだけで査読論文が 10 篇くらい出ると思っています。

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